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オマケ 1 : 4
もとより、俺に演技なんて向いていないのだ。
そもそも俺が演技派だったら、あの日の告白だってもっと上手にできただろう。
体当たりのようなキスだってしなかったし、強引にキスマークだってつけなかった。もっともっと、上手なハッピーエンドを展開できたはずだ。
……などという過去回想に浸っているのには、理由がひとつ。
「うぅぅ、酷いよ子日君……っ。僕の純情を弄ぶなんて、酷いよ……っ」
先輩がそう言いながら、膝を抱えて丸まってしまったのだ。
リアルな新婚も駄目で、設定を過剰なほど盛った新婚も駄目。挙句の果てには亭主関白な旦那も駄目ときた。
俺は先輩のポケットから抜き取った財布を先輩に返し、それと同時に蹲る先輩と目線を合わせる。
「すみません、先輩。失礼を承知で言わせていただきますが、今日の先輩はなにもかもが面倒くさいです」
「本当に失礼っ! でも、そんなドライな子日君も可愛いねっ! 今すぐ抱き締めたいよっ!」
「ねぇ、あなた? 晩酌にお醤油一本なんてどうかしら?」
「軽く死んじゃうよマイハニー!」
財布を受け取った先輩は、クスンクスンとわざとらしく泣いていた。……ふむ、さすがにいじめすぎたかもしれない。
俺はさめざめと泣く先輩を見つめて、できるだけ威圧的にならないよう静かな声を出す。
「そもそも、なんでこんな突拍子もなければ意味も価値も生産性もないくだらないごっこ遊びをしたがったんですか? 理由が分からなさ過ぎて、正直【愚】という言葉ひとつで片付いてしまい、うまく感情移入ができなかったのですが」
「冷静な子日君の声が、研ぎ澄まされたナイフのように僕の心を切り裂いていく……っ!」
「そんな俺はお嫌い、ですか……っ?」
「……大好き」
そうかそうか。ちなみに、俺も先輩が大好きだぞ。言ってはあげないけど。
先輩は膝を抱えたまま、どことなく拗ねた様子でポツポツと呟く。
「だって、今日は金曜日でしょう?」
「えぇ、金曜日ですね。本来ならもっと早く帰って、俺は部屋で一人、最高にハッピーな週末へと洒落込めたはずの金曜日ですよ」
「うぅぅっ、遠回しだけどハッキリとした嫌味がチクチクと胸に刺さる……っ」
「そんな俺は──」
「愛しているけども……っ!」
なんとも難儀な人だ。こんな俺のことを好きになってしまったのだから、妙なごっこ遊びに夢を見るのはやめていただきたい。生憎と、俺は自分でも悲しくなるほどのリアリストだぞ。
しかし、いったい金曜日だからなんだと言いたいのだ。サッサと帰って、素敵な土日に向けて今夜からエンジョイをするべきではないか。
だが、先輩の考えはどうやら違うらしく……。
「……嫌、なんだよ」
膝を抱えたまま、先輩は俺を見つめて、そっと呟いた。
「──二日間も、君に会えないのは。……凄く、寂しい」
……。
…………?
──はいっ?
「仕事中に君の邪魔をして、残業にまでもつれ込ませたのは申し訳ないとは思うよ。だけど、離れたくなかったんだ。君は土日にきっと、自分の好きなことをする。その思考の中にはきっと、僕なんて欠片もいない」
「いや、あの、先輩?」
「だけど、僕は違うんだ。君と離れていても、頭の中は君のことばかり。君と会えないと凄く寂しいし、離れているともどかしい。ずっと隣に君がいてほしいし、叶うのなら腕の中に君を閉じ込めていたい。だからこうして、せめてもの時間を大切に味わいたくて──」
「──ストップです、先輩」
俺が静止をかけると、先輩は素直に口を閉ざす。
……つまり、えっと、どういうことだ? 先輩の行動理念には、いったいなにがあったって?
俺は額に手を当てて、数秒、思考。
その後に、まとまった答えを口にした。
「──もしかして、俺と少しでも一緒にいるための引き留めだった。……ということですか?」
「──うん」
……あー、なるほど。
──この人、マジで阿呆なんだな。
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