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続 1 : 7

 兎田君から貰った、飴。  その単語を聴き、子日君の表情が一変した。 「──えっ、メチャメチャ危ない物じゃないですか」 「──そう! その反応! その反応が正解だよ、子日君!」  露骨な、警戒。さすが僕の同期、兎田君だ。彼の名前を出せばどんな怪しいものも文字通りの怪しさとなる。  兎田君、ありがとう! 君が君であるおかげで、子日君からの誤解が解けたよ! ……君のせいで誤解されたんだけどね!  飴に対する認識が明らかに変わったらしい子日君は、まるで爆弾を見るかのような目で小瓶を見ていた。うんうん、その反応、その反応だよ!  しかし、持ち込んだのは僕だ。僕はその場で正座をして、子日君に対して小さく頭を下げた。 「ご推察の通り、よろしくないアイテムです」 「なんて物を俺の部屋に持ち込んでいるんですか」 「ぐうの音も出ません」  縮こまった僕を見て、子日君はわざとらしくため息を吐いている。  ……だが、すぐに。 「──じゃあ、俺が舐めますよ」  そう言い、子日君は小瓶に手を伸ばしたのだ。  突然のラッキースケベ展開──もとい、危険な展開。僕は慌てて顔を上げて、子日君を見た。 「えっ! なっ、なんでっ! 今の聴いてたっ?」 「聴いてましたよ。だからこそ、俺が舐めます」  子日君は小瓶を拾い、中身をジロジロと眺め始める。 「きっと兎田主任のことですから、このよく分からない飴を舐めて感想をお伝えしないと怒るのでしょう?」 「えっ? ……そ、う、なのかな?」 「だって兎田主任って、研究を人生の中心に置いているような人でしょう? そして他人をモルモット以下の存在にしか認識していないはずです。……中でも、俺たちのことは特に」 「同期への酷すぎる評価なのにそれを『正当だなぁ』と思う僕を赦して兎田君ッ!」  しかし、どうなんだろう? もしかして兎田君は、あれだけ僕からの惚気を嫌がってみせたわりに、実はそういう話に興味津々なのかな? それとも、子日君が言う通り研究熱心ってこと?  同期である兎田四葉君のことが分からなくなって混乱している僕には構わず、子日君は小瓶の蓋をキュポッと開けてしまった。 「この飴玉がどういったものかは分かりませんが、さすがに死なないですよ。大丈夫です。俺、体は丈夫なので」 「だ、だけど──」 「先輩が舐めるより、俺が舐める方が何億倍もマシですから」  その言葉を聴いて、僕はようやく理解する。  ──どこまでいっても、子日君は僕の【幸福】を優先していて。つまり、僕を守ろうとしているのだ、と。  正体不明の謎アイテムを服用することに、一切の躊躇を見せない。それは、実験の対象に【僕】がいるから。僕におかしなことが起こるくらいなら、子日君は自分が犠牲になる方を選択するのだ。  ……だから僕は、子日君が心配になってしまうのに……ッ。  小瓶の中から、子日君は飴玉を一粒だけ摘まんだ。「綺麗な色ですね」なんて感想を言いながら、子日君は口を開く。  もしもこのまま、子日君が飴玉を舐めたとして。兎田君が言う通り、子日君がド淫乱になってしまったら。……それは存外、僕にとって好ましいシチュエーションだろう。  ……だけど。だとしても……っ! 「──駄目だよ、子日君ッ!」  ──だけどヤッパリ、こんな形で子日君と事に及びたくない!  僕は子日君の手首を掴み、そのまま強引に子日君の手を引き寄せて──。 「ちょっと、先輩……ん、っ!」  飴玉を摘まむ子日君の指を、僕はその飴玉ごと口に含んだ。

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