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続 1 : 11
僕からのSOSを受け取った子日君は、すぐにメモ紙を開封する。
それほど、長い文章が書いているわけでもないだろう。子日君は瞳を動かして、素早くメモを読み込んだ。……駄目だぞ、僕。動く瞳にすら欲情してどうする。
メモ紙を読み終えた子日君は、すぐに……。
「──はぁあ~っ」
なぜか、あまりにも深すぎるため息をたっぷりと吐いたではないか。
「えっ、どうしたのっ? ヤッパリ、兎田君による僕への罵詈雑言?」
「いえ、そういった類のことは意外なことに書かれていませんでした」
「それは本当に意外だねっ!」
だけど、それならいったいなにに対して子日君はため息を吐いたのだろう。謎を抱えたまま、僕は子日君を見つめた。
すると子日君は、どういうことか頬を赤く染めたではないか。……ん? ど、どうしてっ?
なにも言えずに戸惑っていると、子日君がまたしてもため息を吐く。ヤッパリ、僕にはその理由が分からない。
しかしそうすると、すっかり子日君はいつもの調子に戻って──。
「──『相手のことが好きであればあるほど、効果は絶大』なんですって」
──そう言いながら、子日君は自分のワイシャツからネクタイを引き抜いたではないか。
子日君はジロリと僕を見上げて、しっかりとした怒りのようなものを僕に向けている。
「先輩、気付いていますか? さっきから俺の下半身に、先輩の凶器が当たっているんです」
「なにそれ──あっ、これか」
「なんでさらに押し付けるんですか、このケダモノ」
そう言いながらも、なぜか子日君は逃げようとしない。むしろ、ワイシャツのボタンを外し始めていた。
僕は慌てて、子日君の手を握る。
「待って、子日君! そっ、それは駄目だよっ!」
「なんでですか? 先輩は今、股間が勃起して俺に欲情しているんでしょう? それなら、治す方法にはこれが手っ取り早いです」
「──こかっ、ぼっ! ねっ、子日君っ! 破廉恥だよっ!」
「──アンタにだけは言われたくねぇ」
子日君はフイッと視線を外し、僕を視界から消した。
……そして。
「──俺だって、別に……先輩とシたくないってわけじゃ、ないですし」
その頬を、赤く染めて。……なんてことは、当然なかったけれど。
子日君はチラリと、僕を見てくれた。
「一ヶ月ぶりなんで、強引には突っ込まないでくださいね」
いつもの、素っ気ない口調だ。僕を安心させて、僕を甘やかしてくれる子日君の声だった。
──そして僕に向けられる子日君の目は、どこか甘えたそうに潤んでいて。僕は思わず、唾を飲み込んでしまった。
「先輩の、馬鹿。唾を飲み込むとか、ほんと……興奮、しすぎです」
「ここまで、長かった……ッ! 苦節、一ヶ月……ッ! ようやく恋人に手が出せる……ッ!」
「そんな重々しく……」
子日君、さすがのドン引き。だけどこれが僕の本心なのだから、仕方がないかと諦めてもらいたい。
気を取り直し、僕は子日君の頬に手を添える。
「子日君、好き……っ。好き、大好き、好きだよ、好き……っ」
「ちょっと、あの、怖いです、先輩」
「震えているね。そんなところも可愛いよ、僕だけの子日君。好きだよ、大好き、好き、好きだよ、大好き」
「突然のヤンデレ化は本当に怖いです」
手を出してもいいと許可を受けた僕は、最早無敵だ。子日君への好意を隠す必要がなく、むしろそれをオープンに晒せと言われたくらいなのだから。
どことなく子日君の目が『早まったなぁ』と言いたげな様子で光を失っていっている気もするけど、おそらく気のせいだろう。……うん、気のせいだよね。
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