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続 1 : 12 *
──いい匂いが、する。
子日君に顔を寄せると、そんな感想が浮かんできた。
「子日君……っ」
子日君の腰からベルトを引き抜き、そのまま子日君から衣服を剥ぎ取っていく。それでも子日君は抵抗を示さず、むしろ僕が脱がしやすいようにと身をよじってくれてもいた。
「さすがに、ちょっと……緊張、します」
「ちゃんと優しくするから大丈夫だよ」
「それが嘘だったら針を千本、先輩の心臓に突き刺します」
「極刑がすぎないかな!」
などという茶番も、子日君なりの照れ隠しだろう。……えっ、そうだよね?
すぐに子日君を裸にし、僕は大好きな恋人の裸体をまじまじと観賞する。
「一周回って、芸術にすら思えてくる……っ。どうしよう、泣きそうだよ、子日君……っ」
「もしかしてこの飴、頭を悪くしたり……もしくは、気でも狂わせるなにかヤバい物質とか入っていたんじゃないでしょうね?」
「本当に、気が狂いそう。だから僕は【好意】が怖い……っ」
「興奮による涙目の状態で笑えないアホなこと言わないでください」
今日も、子日君が可愛くて仕方がない。僕は意味もなく、心の中で神に感謝をした。なんて言うんだっけ、確か、子日君が言っていた……アーメンハレルヤピーナッツバター、だったかな。
しばらく感動に打ち震えていると、子日君が指先で床をトントンと叩き始めた。
「先輩、もうそういうふざけたやり取りはいいですから」
「あっ、ご、ごめんっ!」
「だから、そういうのもいいから。……は、やく。……早く、先輩も、脱いでください……っ」
そこで、ようやく気付く。子日君を脱がしたのはいいものの、僕はなにひとつ装いを変えていない、ということに。
さすがの子日君でも、この状況は恥ずかしいらしい。珍しく、顔が赤くなっている。……そっか。子日君も、裸を見られるのは恥ずかしいんだね。
……そんな顔をされると、さすがに。
「──もう少し、君を辱めていたくなるよ」
なんて、悪い僕が出てきてしまいそうだ。
子日君がギョッとした様子で驚いているが、それも『可愛いなぁ』と思いながら、僕は自分の指を唾液で湿らせる。
「今日は、このまま。今までお預けを食らっていたんだから、ちょっとくらい僕の好きにさせてもらってもいいよね」
「おあ、ずけって……っ。ちがっ、俺は別にそういう意味で先輩に素っ気なくしていたわけじゃなくて──ひっ!」
「暴れないでね、子日君。傷とか、付けたくないから」
「あ、ぁ……ッ」
ビクリと、子日君の体が震えた。それと同時に、心配になるほどの硬直を見せる。
「怖い?」
「怖くは、ないです……っ」
「じゃあ、なにか嫌な点とかは?」
「……経験回数が一回なので、緊張します……っ」
素直だ。可愛い。
子日君は自分の口を手の甲で押さえて、まるで耐えるようにしている。おそらく、僕に変な心配をかけまいとしているのだろう。
そんな優しいところが、確かに僕は好きだ。……好きだ、けど。
「一回でも、僕は覚えているよ。文一郎の【弱いところ】を、ね?」
「は、あ……ん、っ!」
こういうときくらい、全てを晒してほしいとも思う。これは単純に、僕の我が儘でしかないけれど。
子日君の後孔に差し入れた指で、ある一点をかすめる。そうすると子日君の声が手の甲を押しのけて、堪らないと言いたげな様子で溢れた。
「本当に、可愛い。……好きだよ、僕の文一郎」
そう言うと、そっと睨み返される。
小さな反抗すらも可愛く見えてしまうのだから、やはり子日君は可愛くて仕方のない子なのだ。
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