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続 1 : 14 *
ゆっくりと、傷つけないように、気を付けて……。
僕以外と【こっちの】経験がない文一郎に嫌な思いをさせないよう、僕は可能な限りゆっくりと距離を詰めていく。
「痛くない? なにかあったら、すぐに言ってね?」
「ん、ぅ……ん、っ」
文一郎は頷いて、そのまま両手で拳を握っていた。
……そっか。文一郎はまだ、僕に触ることを遠慮してくれているんだ。不用意に触って、僕を怖がらせないために……。
「いいよ、文一郎。僕の背中に、手を回して」
「だ、けど……っ」
「君の手の平に爪が食い込む方が心配だよ。君は、そういうことを平気でしそう。……だから、ほら」
文一郎の両手をそっと掴み、そのまま僕の背へと回させる。
すぐに文一郎は戸惑った様子で視線を泳がせたけど、やがて納得してくれたらしい。
「……ありがとう、ございます」
もしも僕が、普通の男だったら。文一郎は一人で我慢をせずに、すぐさま僕の体に腕を回し、甘えられただろうに。……それなのにこの子は、僕にお礼を言うんだ。
優しくて、切なくて、ヤッパリ優しくて。ますます僕は、文一郎を好きになってしまった。
「根元まで挿入できた。……気持ちいいよ、文一郎」
「それ、は。なにより、です……っ」
「苦しくない? 痛みは?」
「あったら、ちゃんと言いますから……っ。さっき、約束しました、し」
悪くはなさそう、かな。一先ず、安心だ。
文一郎の呼吸が落ち着くまで、今は動きを止めておこう。僕はジッと、押し倒した先にいる文一郎を見つめる。
するとすぐに目が合って、ムッとした顔を返されてしまった。
「なんですか、ヘンタイ……っ」
「今日も可愛いなと思って、見惚れちゃった」
「調子がいいですね、まったく……」
キュッ、と。背中にある文一郎の手が、シャツを握った。
「その余裕、削ぎ落としてあげますよ。……だから、動いてください、章二さん」
勝ち気に笑いながら、文一郎は僕を挑発する。
いつもの文一郎ならこれはただの【嫌味による煽り】になるけれど、今に限っては違う。おそらく兎田君の薬による効能を心配して、わざと煽ってくれているのだ。
その優しさが少しだけ胸を締めるけど、それでも……。
「うん、ごめんね。……正直に言うと、動きたくて堪らないよ」
配慮は、返してあげられそうになかった。
文一郎の背に腕を回し、彼を抱き締める。そうして距離をさらに縮めてから、僕はゆっくりと体を動かした。
「んっ、あ……ッ! これは、やだ……っ。章二さんの、耳元で、喘ぐみたいで……っ!」
「確かにそうだね。可愛いよ、文一郎」
「っ! みっ、耳元で囁くな、馬鹿……っ!」
抱き締めてもなお、文一郎はツンツンしている。たぶん、照れ隠しだ。本気で嫌なら、今頃僕は初めてここに来た時と同じように蹴り飛ばされているだろう。
……それに、文一郎が本気で嫌がっていないと分かる証拠は、他にもある。
「あっ、あ、っ。……んっ、ぅ……は、っ」
僕の耳元に零れる声と、シャツを握る手。
さすがにそこまで分かり易い根拠を用意されて、いつもみたいに『本気で怒っているのかも』と。そう思うほど、僕は鈍感ではないつもりだ。
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