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続 2 : 4

 周りの職員が『また牛丸が子日を怒らせた』と笑っている中、俺たちは事務所から出た。  あぁ、最悪だ。他人のせいでこんなに心が乱れるなんて、あんまりじゃないか。あまりにも、落ち着かなくて困る。  ……いや、違うか。俺と先輩は【他人】じゃなくて、れっきとした【恋人】だもんな。  ……いや、いやいや! だから! すぐに満更でもなさそうにするなよ、俺!  なんだか、俺ばかりが先輩を好きで悔しいじゃないか。俺だって、先輩をドキドキさせたいぞ。……チクショウ、今サラッと『先輩を相手にドキドキしています』と認めてしまった。最悪だ、帰りたい。  それでもなんとか移動中に心を落ち着かせて、俺は兎田主任が待っているであろう仮眠室へと辿り着いた。 「主任、来ました。子日です」  扉をノックし、声をかける。そうすると数秒後、扉が開いた。  相手は当然、兎田主任だ。案の定、上半身裸の状態でもある。初めは驚いたが、さすがに毎回だと慣れてしまうな。なぜならこの人は、日曜日の夜中に会っても上半身裸だったのだ。  そう思うと、あれだな。たぶん兎田主任は俺に内線電話をかけるため、この姿のまま通路を歩き、この姿のまま企画課の事務所へ向かったのだろう。……驚くだろうな、企画課の方々も。 「あの、主任。失礼を承知で訊ねさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」 「なんだよ」 「お召し物はどちらに?」  資料を兎田主任から受け取りつつ、俺は俺よりも断然背が高い兎田主任を見上げた。  すると兎田主任は乱雑な手つきで、自身の後頭部を掻き始める。 「服は嫌いなんだよ。行動が制限される感じがしてな。本音を言うなら下だって脱ぎてぇんだぞ」 「おやめください、切実に」 「テメェもそう言うのか。……なんでかテメェと同じ意見の奴が、この会社には多いみたいだな。下を脱いでウロつくと、何回か面倒を起こされたんだよ。だから、人に会うときは妥協してやることにした」 「まさかの、事後」  そりゃあ、全裸でウロつかれたら面倒を起こされるどころかパニックを引き起こすだろう。巻き込まれた人々には、心の中で一先ず聖歌を送っておこうか。  どよんと肩を落とした俺を放置し、兎田主任は俺の後ろに立つ先輩を見た。 「よう、ウシ。俺様が呼んだのはネズミ野郎一匹だけだが、なんでテメェもついてきたんだ?」 「僕の方こそ、君に訊きたいよ。いつも人がいない時間帯に資料を持って来る君が、どうしてわざわざ人を呼んだの? ……しかも、よりにもよって子日君を」 「理由か? そんなの、答えはひとつだろ」  あれっ? なぜか、俺が公然わいせつの被害者に聖歌を送っている間にこの場の空気が不穏なものへと変貌していたらしい。  重たくなった空気に気付いた俺は、会話を切り上げて先輩と共にこの場から退散しようと目論む。  ……目論んだのだが──。 「なぁ、ネズミ野郎」 「ほえっ」  ──なぜだか突然、兎田主任が俺の顎を掴んできたではないか。  えっ、い、痛いぞ。兎田主任の方を向くよう顔を持ち上げられると、普通に痛い。兎田主任の背が高すぎるから、シンプルに首が痛いのだが?  戸惑う俺を無視して、兎田主任はニヤリと口角を上げた。 「そろそろ【後ろ】は慣れてきたか?」 「はっ?」 「俺様個人の意見としては、初物に興味はねぇんだよ。多少こなれた具合が一番楽だからな」 「え、っと? いったい、なんのお話でしょうか?」  しまった、と。そう思った時には、遅く。 「──ヤらせろって言ってんだよ」  俺は、失念していた。  ──先輩の同期であるのならば、この人も大概ドヘンタイなのだ。……という、ゴリゴリの偏見による真実を。

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