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続 3 : 12

 キスを終えた後、僕は情けない笑みを浮かべてしまった。 「ごめんね、子日君。……安心、した」 「そうですか」  ヤッパリ、子日君は僕の不調に気付いていたのだろう。それ以上はなにも言わないけれど、子日君はただただジッと、そこにいてくれた。  どこまでも、子日君は優しい。きっと子日君は、職場でこういうことをするのが嫌なはずだ。  それなのに、彼は触れ合いを提案してくれた。どちらかの家まで持ち込まず、すぐに僕の不安や落ち込みを解消しようとしてくれたのだ。……僕の不調すらも、受け入れてくれた。 「僕は、君が好きだよ」  子日君の頭を撫で直し、僕は呟く。 「さっき怒鳴ったのは、幼稚なヤキモチだった。だけどね、それは【頭を撫でていた】ことじゃなくて、もっと別のこと。……子日君によって、僕以外の誰かが変わること。たったそれだけの、些細なことが。そんな、大きなことが。……僕は、堪らなく嫌だったんだ」  結局、こうして弱い部分を晒してしまっている。なんとも、情けない話だ。  子日君は頭を僕に撫でられたまま、そっと下を向いた。 「そんなこと、いちいち気にすることじゃないですよ」 「うん。……だけど、気にしちゃうんだよ」 「困った人ですね、先輩は」 「うん。だからね、君に伝わっていなくてもいいんだよ。それに僕は、君に伝えたくもなかったんだ」  柔らかい髪が、触っているだけの僕に幸福な気持ちを与えてくれる。 「だけど、少し心変わり。……君に届いてくれていると、僕は嬉しいなって。打って変わって、そう思う」  子日君が絡むと、僕は僕自身でも嫌になるほど面倒な男になってしまう。  それなのに子日君が絡むと、すぐに僕の悩みや不安は消えてしまうのだ。  不意に、下を向いたままの子日君がポツリと、実に小さな声で呟く。 「誰かが変わったかどうかなんて。どうしてそんなことで、先輩が落ち込むんですか」 「それは──」 「──俺によって【誰かが】変わったとしても。【俺が】変わるきっかけになった相手は、先輩だけなのに」  すかさず、僕は子日君の顔をもう一度持ち上げてしまった。今度は多少、強引に。 「……もしかして、拗ねているの?」  ムッと、若干だけれど唇が尖っている。……これはいつもの不愛想とかではなく、恋人としての不愛想だ。  またの名を、物凄く貴重なデレとも言う。 「そう見えるなら、他にもっと言うことがあるんじゃないですか」 「えっ、な、なんだろう。……好きだよ、とか?」 「知っていますよ、まったく」  外したか。そう思った僕に、答えがやって来る。  ……子日君の頬が、ほんの少しだけ熱を帯びたのだ。どうやら僕の言葉は、間違いではなかったらしい。 「……好き」 「知っていますってば」 「うん。だけど、好きなんだ」 「なんですか、まったく。頭の悪い会話ですね」 「そうだね。でも、好きだよ」 「……しつこいです」  頬が熱を帯びたのに、子日君は僕から顔を背けようとしない。  それがまた嬉しくて、可愛くて、愛おしくて。僕はもう一度「好きだよ」と口にしてしまった。

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