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続 4.5 : 4

 と言うか、大前提に! なんでこの人はオレとブンをくっつけようとしているんだ!  おかしいだろ、なんでだよ! オレは全然、ブンのことなんか好きじゃないんだからねっ! 勘違いしないでくれよなっ! 「違うッス、全然違うッスよ! オレが失恋したのは事実ですけど、それは仕方のないバッドエンドであって! そこにはブンの影も形もないわけでして!」 「へぇ? じゃあなんで、ネズミ野郎の名前を出すだけで俺様に唾を吐きかけるほど動揺したんだよ」 「それはブンが──……ッ」  すぐに、ハッとする。ハッとすると同時に、オレは閉口した。 「……っ」  しかし、このまま黙っているわけにはいかないのだ。閉口は肯定になると、説明されなくたって分かるのだから。 「……とにかく、オレはブンのことが好きなワケじゃないんですよ。それに、酷い顔もしてないんです。三股の末に迎えた破局ではありましたが、その失恋も全然気にしてねーんですよ」 「なんだそのアホみてぇな失恋」 「あぁもうっ! とにかく、いいから離してくださいッ!」  兎田サンの指摘が勘違いであり間違いでもあると説得したのに、なぜか兎田サンはオレを解放しそうにない。掴まれた首根っこは、そのままだ。 「なんなんですかっ、さっきからっ!」 「唾を吐いた仕返しだ。テメェの顔が辛気臭い理由を吐け」 「ツバだけじゃなく心情も吐けと! 誰ウマですかっ、座布団一枚ですっ!」 「いいからサッサと吐けっつの」  手足をジタバタと動かすも、ヤッパリ兎田サンは解放してくれない。体格差とかもあるのかもしれないが、オレはオレで兎田サンに勝てそうになかった。  まさに、デッドエンド。オレは兎田サンに捕獲されてしまったのだ。……くそぅ、解せない。オレはトラで兎田サンはウサギなのに、なぜ。 「いいだろ、別に。テメェは俺様専属の配達人なんだろ?」 「えぇまぁ不本意極まりないですけどねぇッ!」 「だろ? つまり、俺様とテメェは言わば【パートナー】ってやつだ。他人に興味なんざサラサラないが、悩みくらいは聞いてやるよ」 「悪人みたいなニヤニヤ顔でパートナー扱いされても嬉しくない! うわぁあんっ、ブンッ、ブゥーンッ!」  泣けど、叫べど。助けは来ず、解放もナシ。オレたちの攻防戦は圧倒的な実力差を知らしめながら、兎田サンの圧勝だ。  ゼェハァと息を切らしながら、オレはゆるりと力を抜き、脱力と断念を併せ持った。 「……ってか、ホントに兎田サンは知ってるんですね。……ブンの、こと」 「──ウシとの初夜に使われたからな」 「──えっ。ナニソレ、どーゆーことッスか」  深く訊ねようとすると、なぜかすぐにギロリと睨まれてしまったぞ。どうやら三人には、複雑な事情や理由があるらしい。  ……だが、それはそれだ。 「でも、ホントに。ホントに違うんですよ、マジで。オレはブンが好きとか、ましてや牛丸サンが好きとか。ホントに、そうじゃなくて……」  そうじゃ、なくて。好きとか嫌いとか、そういう話ではまったくないけど。オレは、オレは……。  ……オレはその先を、誰にも言いたくなかった。  ──誰にも知られたく、ないのだから。

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