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続 4.5 : 6
揶揄われているのだとしたら、あまりにも意地の悪い話だ。ちょっとツバを吐いてしまっただけなのにこれでは、割に合わないどころの話ではないだろう。
「顔を見ただけで考えていることが分かるなんて、そんなものはフィクションの話ですよ。エスパーならまだしも、ただの人間に分かるワケがないじゃないですか」
もしも本当に、オレのことが分かっているのならば。オレがこうして問い詰められたくないと、そう気付いているとも言えるだろう。
だったら、ヤッパリこの人の言っていることはテキトーだ。オレはそんなザレゴト、信じたくない。
それなのに、兎田サンは……。
「それはテメェが今まで出会ってきた奴らが【上辺しか見られねぇ連中だった】って話だろ。有象無象と俺様を一緒にするんじゃねぇよ」
「じゃあ、なんで兎田サンには分かるんですか。他の人と、なにが違うんですか」
「目の動きとか、表情筋の動きとか。普段の癖とか、そういう微細な変化で分かるだろ」
「……人間嫌いなんじゃ、ないんですか」
「ダボが。だから俺様は人間が嫌いなんだよ」
なるほど。理には適っているし、どうやら兎田サンがした指摘には確信しかないらしい。
それ、なら。……あぁ、もう。もう、いいや。それならもう、どうだっていい。心の中にある僅かな隙間に、そんな言葉が滑り込んできた。
兎田サンが引き金を引いた所以は、知らない。オレを揶揄うための言葉だとしても、心配からの言葉だとしても。そんなことはもう、どうだっていい。
どうせなにを言ったって、この人は気にも留めない。大前提に【言わないと解放されない】のならば、もう、いっそ……。
……その諦めと慢心と油断が、オレの口を動かしてしまった。
「……ずっと、ブンに言ってたんですよ。『周りに関心を持て』って。オレはずっとずっと、ブンと会った時からずっと……そう、言ってたんです」
兎田サンの気まぐれな煽情に、オレはもう惑っている場合ではなくなって。
「だけど、ホントは……ッ」
動き出した口を援護するように、喉の奥からどんどん言葉が溢れてきた。
「ホント言うと、オレは。……ブンに【関心】なんて、持ってほしいとはこれっぽっちも思ってなかったんです」
一度動き始めた口は、すぐには止まらない。
むしろ徐々に、ますます加速していって……。
「むしろ、そんなもの持ってほしくなかったくらいなんですよ。それでもオレがブンに『周りに関心を持て』って言っていたのは、結局のところブンの素っ気ない返事を聴いて安心したかっただけなんです」
速度を緩めずに喉奥から溢れ出る言葉に対し、残った理性やら冷静さやらが慌てふためき始める。
「その返事があれば、オレはブンと一緒にいられる。……や、違うッスね。オレは【周りに関心を持たないブンだから】一緒にいたかったんだと思います」
ダメだろ、ヤバイって。
こんなことを言ったら、オレは……ッ。
「だって、そうじゃないですか。ブンが【それ】を持っちゃったら、オレはオレが惨めで堪らなくなる。だからオレは、有り体に言っちまえば親友を自分の安寧のためだけに利用していただけのダメな奴なんです」
ダメだ、ダメだって!
「ブンが【それ】を持ったって知って、親友としては心の底から喜んでやりたかった。だけど、オレが最初に抱いた感情は全く別のもので……ッ」
やめろ、やめろやめろやめろッ!
これ以上は──。
「──ただただ、羨ましいな、って……ッ」
これ以上は、誰にも。……大親友のブンにだって、知られたくなかったのに……ッ。
気付いたところで、時すでに遅し。オレは兎田サンに、全てを吐いてしまっていた。
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