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続 4.5 : 7

 ……。  ……あぁ~、うん。  ──ハイ。終わったぁ~。  もうダメだ。こんなことを言うオレは、もう絶対おムコに行けない。チクショウ、涙も出ない空虚さだぜ。トホホだ、トホホ。  しかし、そうだ、そうなんだ。結局のところ、オレはブンが羨ましかった。  どれだけ彼女をとっかえひっかえしても、どれだけ女の子に『好きだよ』と言っても、言われても。それは、周りが言う【特別】とは絶対に違うんだ。  ──オレはずっと、皆が知っている【特別】が欲しかった。  それでも、手に入らないと知っていたから。だからオレは知ったかぶりをして、周りが当たり前に持っている【特別】を誰よりも多く持っているフリをした。  子供の頃から、ずっとそう。オレはどこまでも冷めた男だから、どうにもなにかに対して本気になりきれなくて。熱い男のフリをし続けただけのオレがそのまま大人になっても、周りと同じように【特別】を持てないのは当たり前だったのだ。  そんなオレと、同じタイプ。それが、たまたま同じ時期に同じ会社に入社した同じ年齢のブンだった。  オレは初めて出会った【同族】を、大事にしたかったんだ。オレだけがおかしいと思っていた世界に、オレと同じ考えの人間がいたんだから、当然だろう?  ……だけど、ブンは変わった。オレが憧れて、羨んで、妬んだ【特別】を知ってしまったのだ。あんなにも、自分の生き方を変える素振りひとつ見せなかった、あのブンが……。  本来ならば親友の幸福を【祝福】すべきだったのに。温かで穏やかな気持ちよりも先に、オレは確実にブンの変化を【呪った】のだから。そんな自分に自己嫌悪するのは、あまりにも身勝手だと分かっていても……苦しくて、つらくて、嫌になったのが事実だったから、オレは……ッ。  ……誰にも、知られたくなかったのに……っ。 「あぁぁ~っ、終わったぁ~っ! 可愛くてお茶目で、体の成分がハッピーで構築されている設定の竹虎幸三クンが完全に死んだぁ~っ! イヤだぁ~っ、これでオレのファンが去って行くのはあまりにもイヤだぁ~っ!」  両手で顔を覆い、さめざめと泣く。  世界中の誰にも知られたくなかった、中身空っぽの男だという事実。それを知られてしまい、オレはもう涙しか出なかった。……や、ウソ。なんでか涙が出てこない。なんでだよぅ、こんなに悲しいのにぃ~っ!  愛と情に生き、周りのことばかりを気にしている男。傍目にはそう見えていたはずの【竹虎幸三】は、結局のところ空虚なオレが作り出した偶像だ。  三股の挙句に振られたって、若干落ち込みはしたがそれだけ。昨日まで楽しく喋っていた相手から嫌われたら、誰だって凹むだろう? 落ち込んだ理由は、とどのつまりそういうことだ。  だけど、オレに突き刺さった事実は【失恋】ではない。ブンと牛丸サンが付き合っていたと知って、ブンがオレに向けた笑顔を受けて感じたものも【失恋】なんかじゃなかった。  それは、抗いがたいほどの【喪失感】。世界に一人きり同士だったはずなのに、ブンはいつの間にか一人ぼっち大帝国から抜け出していたのだ。  オレはブンに、上手な祝福が向けられない。それでいてこのことを知られたくないオレは一生、ブンに謝ることもできないのだ。 「うおぉ~んっ、うおぉ~んっ! 秘密の話をゲロったのに解放もされないし、もうなにもかもオシマイだぁ~っ!」  グスグス、めそめそ。一滴も込み上げてこない涙にドン引きしつつ、オレは首根っこを掴まれた状態で泣きべそをかく。  って言うか! せめて一言なにか言えよ! 引き出したのは兎田サンだろ、バカーッ! ……とは、本人には怖くて言えないけど!  覆しようのない後悔と絶望に苛まれながら、オレはぐったりと脱力する。もうダメだ。なんだかとっても疲れたよ、パト──。 「……クッ、ハハッ」 「へっ?」 「──ハハハッ! ハーッハッハッハッ!」  ようやく返ってきた、レスポンスはと言うと。  ……えっ、えぇ~っ? すっ、すっげぇ高笑いじゃん……! なんでぇ~っ?

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