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続 5章【先ずは克服させてくれないかな(牛丸視点)】 1

 竹虎君との一件も、子日君の中ではスッキリと片付いたらしい。 「【基盤】じゃなくて、もっとこう特別な意味の単語に……。……うぅーん?」  気付けば秋から冬に変わり始めていた季節の中、僕はパソコンを前に腕を組み、小首を傾げていた。絶賛、プチ残業中だ。  徐々にではあるが、僕と子日君の関係は安定したものへと変わり始めている。他人の愛情を受け止められない僕と、他人への愛情が初めての子日君とでは、なかなか【普通の恋人】というものが難しいのかもしれない。  それでも僕たちは、僕たちの速度で関係を進めている。徐々にでも、ゆっくりでも……僕たちは少しずつ、関係性の【基盤】となるものを固めていっているのだ。  腕を組んで書類に悩みながら、僕は感慨深さから心の中で頷く。すると、隣に座る僕の恋人がそっと、僕のデスクへと身を乗り出してきた。 「……【秘訣】とか、どうですか?」 「あぁ、なるほど! さすが僕の子日君だねっ!」 「その顔、確実に自分で思いついていましたよね」  ため息交じりにそう言いながら、子日君は自分のデスクへ戻ってしまう。あぁ、残念。可愛い頬にキスくらいしちゃえば良かったかなぁ。  ……おっと、脱線しちゃったね。とにもかくにも、僕と子日君は少し苦難が多いけれど、それを徐々に解決しながら良好な関係を築いているのだ。  さて。忘れないうちに【基盤】を【秘訣】に打ち換えて……っと。よし、書類完成っ。デスクの上に置いた卓上カレンダーへ手を伸ばし、僕は今しがた終えたばかりの作業をメモする。 「……ところで、子日君」 「なんでしょうか」 「もう、気付けば十一月も後半になったね」 「確かに、そろそろ十二月になりますね」  子日君は帰り支度を進めながら、相槌を打ってくれた。あっ、もしかして僕の作業が終わるのを待っていてくれたのかな? 優しいなぁ、今日も大好きだよっ。 「ちなみにだけど、十二月二十四日……もしくは、二十五日の予定は?」 「仕事ですかね」  あぁ、いいなぁ、こういうの。この取り留めもない会話が、とっても楽しいよ。 「それじゃあ、その日の夜は僕に時間をくれないかな?」  デスク周りの片付けを終えた子日君は、椅子をほんの少しだけ回転させて僕を振り返った。 「構いませんよ」 「ヤッパリ駄目かぁ……。……えっ?」 「なんでお断りが前提なんですか」  まさかの、あっさり承諾。……あぁっ、嬉しいよっ! 本当に、僕たちは普通の恋人っぽくなってきたんだねっ! 「それで、ゲームですか? それとも、どこか食事にでも行きますか? 思えば、先輩と外食ってあまりしたことないですもんね」 「うんっ、うんっ!」 「それにしても、どうして改めて仕事終わりの予定を訊いてくるんですか? いつもは当日に予定を決めますのに、今回は随分とせっかちですね?」 「……うん?」  ……あっ、あれっ? 「もしかして、その日以外はなにか予定が入っているとかですか? てっきり今晩、一緒に過ごすのかと思っていたのですが」  なんか、思っていた反応となにかが違うような? 「あの、子日君」 「はい」 「僕、君をクリスマスデートに誘ったのだけれど……」 「……クリスマス?」  卓上カレンダーを、ペラリ。子日君は十二月のカレンダーを眺めて、さっき僕が提示した日付を確認して……。 「──あっ、なるほど。すみません、全く気付きませんでした」 「──普通の恋人への道って険しいなぁっ!」  安定の子日君らしさを、発揮したのであった。

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