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続 5 : 2
場所は変わって、子日君の部屋。
「──クリスマスを失念していただけで、まさかそこまで落ち込ませてしまうとは……」
僕は絶賛、子日君に甘えたモード中だった。
背中から子日君を抱き締めて、どんより。夕食中の子日君は、時々僕に箸でご飯を食べさせてくれる。……おでんのちくわ、おいしいなぁ。
「僕、君と過ごすクリスマスを楽しみにしていたんだよ……」
「はいはい。……先輩、あーん」
「あっ、たまご。一口サイズに切ってくれてありがとう、子日君。はむっ。……んっ、おいしいっ」
「機嫌、直りましたか?」
「うんっ」
子日君が、あーんをしてくれる。怪我の功名って、こういうことを言うんだろうなぁ。
「子日君、大好きだよ」
「ご機嫌なのは結構ですが、こっちは食事中なので背中に頭をグリグリと押し付けないでください。つゆがこぼれます」
「子日君が『つゆ』って言うの、ちょっぴり卑猥で素敵だね……っ」
「食事中だっつってるだろ」
どうやら、怒らせてしまったらしい。それでも僕を振り払わない子日君の優しさに、ときめいちゃうね。
……それにしても、クリスマスだ。子日君と初めて過ごす、クリスマス。だからと言ってなにがあるわけではないけれど、それでもやはり【恋人と過ごすクリスマス】という展開は甘美なものだ。
「先輩、はい。あーん」
「あー、んっ。ん~っ、おいしい。おいしい、けど……ちくわはさっきも食べたよ?」
「俺、ちくわってそこまでテンション上がらないんですよね」
「じゃあなんで店員さんにちくわを頼んだの? ……あっ! もしかして穴を孔と──」
「先輩はちくわ、好きでしょう? 好きですよね? ……好きだよな?」
「声が怖いよ、子日君……」
背中にくっついているせいで顔はあまり見えないけど、たぶん真顔なんだろうなぁ。思わず、プルプルと震えてしまう。
子日君はおでんを食べ進めつつ、僕を振り返る。……おぉ、モグモグしてる子日君も可愛いぞ。
「寒いんですか?」
「心がね……」
「へぇ。それはそうと、好きですよ、章二さん」
「すっかりポカポカだよぉ~っ!」
僕の子日君は今日も最高だっ! もう一度ちくわをあーんってされたけど、それでも最高に素敵だよっ!
「ところで、先輩。先輩はやけに【クリスマス】という行事にこだわっていますけど、なにか理由でもあるんですか?」
「恋人と過ごすクリスマスって最高じゃない?」
「はぁ。そういうものですか」
すぐに、子日君は「この大根おいしいですね」と言い始める。……もしかして、僕の発言はおでんの大根に負けたのかな。
「ですが、まぁ。俺には唐突に入る予定なんてないので、心配はご無用ですよ。来月の話ではありますが、当日のお誘いでも問題ありません」
「それじゃあ、イブは僕が誘うからクリスマスは子日君から僕を誘ってくれないかな?」
「それ、先輩から誘われているのと同義じゃないですか?」
「駄目?」
「……はいはい、分かりましたよ」
ヤッパリ僕の子日君は最高だねっ! 思わず、強いハグを送りたくなるよ!
ギュッと子日君を抱き締めると、すぐさま「食事中です」と言われてしまったけれど。それでも、僕はとても幸せ者なのだ。
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