190 / 250

続 5 : 4

 と言うわけで、片付け中。 「二十四日の夜なんだけど、僕の部屋に泊まっていかない?」 「えっ、嫌です。次の日、普通に仕事ですよ? 一緒に出勤しているところとか、見られたくないです」 「勿論それは優しさからの発言だよね? 拒絶とか嫌悪じゃないよね?」 「先輩、台拭きを濡らしてきてください」 「子日君っ!」  それでも台拭きを濡らす、僕。子日君のお願いは断れないよ。  しかしすぐに、僕は頭を働かせた。 「じゃあ僕が子日君の部屋に泊まる! それですぐ家に帰って、通勤の時間をずらす! それならどうっ?」 「……はぁっ。分かりました、いいですよ。俺が先輩の部屋に泊まって、俺が早く帰ります」 「いやいや、駄目だよ! それだと子日君に負担が──」 「その代わり、二十五日の夜はゲーム三昧です。ボコボコにしますから、覚悟していてくださいね?」  ヤッパリ、子日君は優しい人だ。さり気なく僕の負担を軽減しつつ、それをさも子日君のメリットかのように変えてしまう。  ちなみに、子日君は意外と頑固だ。このプランを口にした以上、内容を変えたり発言を撤回したりはしないだろう。 「うん、分かった。だけど、いつまでも負けっぱなしの僕じゃないよ? 二十五日には必ず一勝するからね!」 「じゃあ俺は九十九勝します」 「勝敗の割合がおかしいけど現実味しかないっ!」  なんて会話をしていると、片付けは終了。子日君は数分前と同じ場所に座り直し、僕はすぐにその後ろに座った。 「ねぇ、子日君。二十四日の夜に靴下をあげるから、朝起きたらその靴下を履いてくれないかな?」 「別に構いませんけど、それは先輩からのクリスマスプレゼントが靴下ということですか?」 「ううん。僕へのプレゼントだよ」  子日君の細い体に腕を回し、距離を詰める。 「──プレゼントは、用意した靴下に入れるでしょ?」  しばしの、間。子日君は意味を考えているのか、黙っている。  だけど、意味を理解すると同時に……。 「……っ! こっ、この……っ! バ、バカまるアホつぐ……っ!」  カッと、顔が真っ赤になった。……んんっ、可愛い。 「今の、照れ隠し? ふふっ、微笑ましいねぇ~?」 「……ッ」  笑うと、子日君は赤い顔のまま僕を振り返った。すかさず、子日君の手が動く。  さすがにこれは、殴られるかもしれない。そう思った僕は、反射行動のように目を閉じた。  だけど、思っていた衝撃はこなくて。  ──代わりに、想像していなかった衝撃がきた。 「……あれっ?」  肩を押され、そのまま床にドサリ。僕は子日君によって、床に押し倒されてしまったらしい。 「その余裕な感じが、ムカつきます」 「えぇぇっ! まっ、まさかっ、ついに左右逆転展開っ?」 「先輩がされたいなら、応じますけど」 「──僕が攻めたいッ!」 「──そんな迫真な」  子日君は僕に乗りかかって、いかにも『引いています』という顔をしている。それでも僕は逆転願望なんてないので、子日君にはいつだって下でいてもらいたいのだ。  ……だけど、どうして押し倒されたのだろう? 子日君の考えが分からないまま、僕は上に乗った子日君をジッと見上げた。

ともだちにシェアしよう!