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続 5 : 4
と言うわけで、片付け中。
「二十四日の夜なんだけど、僕の部屋に泊まっていかない?」
「えっ、嫌です。次の日、普通に仕事ですよ? 一緒に出勤しているところとか、見られたくないです」
「勿論それは優しさからの発言だよね? 拒絶とか嫌悪じゃないよね?」
「先輩、台拭きを濡らしてきてください」
「子日君っ!」
それでも台拭きを濡らす、僕。子日君のお願いは断れないよ。
しかしすぐに、僕は頭を働かせた。
「じゃあ僕が子日君の部屋に泊まる! それですぐ家に帰って、通勤の時間をずらす! それならどうっ?」
「……はぁっ。分かりました、いいですよ。俺が先輩の部屋に泊まって、俺が早く帰ります」
「いやいや、駄目だよ! それだと子日君に負担が──」
「その代わり、二十五日の夜はゲーム三昧です。ボコボコにしますから、覚悟していてくださいね?」
ヤッパリ、子日君は優しい人だ。さり気なく僕の負担を軽減しつつ、それをさも子日君のメリットかのように変えてしまう。
ちなみに、子日君は意外と頑固だ。このプランを口にした以上、内容を変えたり発言を撤回したりはしないだろう。
「うん、分かった。だけど、いつまでも負けっぱなしの僕じゃないよ? 二十五日には必ず一勝するからね!」
「じゃあ俺は九十九勝します」
「勝敗の割合がおかしいけど現実味しかないっ!」
なんて会話をしていると、片付けは終了。子日君は数分前と同じ場所に座り直し、僕はすぐにその後ろに座った。
「ねぇ、子日君。二十四日の夜に靴下をあげるから、朝起きたらその靴下を履いてくれないかな?」
「別に構いませんけど、それは先輩からのクリスマスプレゼントが靴下ということですか?」
「ううん。僕へのプレゼントだよ」
子日君の細い体に腕を回し、距離を詰める。
「──プレゼントは、用意した靴下に入れるでしょ?」
しばしの、間。子日君は意味を考えているのか、黙っている。
だけど、意味を理解すると同時に……。
「……っ! こっ、この……っ! バ、バカまるアホつぐ……っ!」
カッと、顔が真っ赤になった。……んんっ、可愛い。
「今の、照れ隠し? ふふっ、微笑ましいねぇ~?」
「……ッ」
笑うと、子日君は赤い顔のまま僕を振り返った。すかさず、子日君の手が動く。
さすがにこれは、殴られるかもしれない。そう思った僕は、反射行動のように目を閉じた。
だけど、思っていた衝撃はこなくて。
──代わりに、想像していなかった衝撃がきた。
「……あれっ?」
肩を押され、そのまま床にドサリ。僕は子日君によって、床に押し倒されてしまったらしい。
「その余裕な感じが、ムカつきます」
「えぇぇっ! まっ、まさかっ、ついに左右逆転展開っ?」
「先輩がされたいなら、応じますけど」
「──僕が攻めたいッ!」
「──そんな迫真な」
子日君は僕に乗りかかって、いかにも『引いています』という顔をしている。それでも僕は逆転願望なんてないので、子日君にはいつだって下でいてもらいたいのだ。
……だけど、どうして押し倒されたのだろう? 子日君の考えが分からないまま、僕は上に乗った子日君をジッと見上げた。
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