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続 5 : 7
子日君と素敵な一夜を過ごした、翌週。僕は、今までとこれからの僕について考えていた。
子日君の優しさと、弱さ。全てを理解していたくせに、僕はそれらをそのままにしていた。
僕が抱えるトラウマを知っている子日君は、僕を守ろうとしてくれていて。その結果、子日君は竹虎君から僕を守ろうとしてくれていた。
もしも、相手が竹虎君じゃなかった場合。子日君に下心のある人間が相手だったとしたら、きっと子日君は酷い目に遭っていただろう。最大の弱点を、握られてしまったのだから。
恋人なのに、僕に触れないようにしてくれていた。それは僕に拒絶されることが怖かったという理由もあったらしいけれど、そもそもの原因は僕の弱さだ。
色々なことが、そのままになっていて。そのままになっていたことが、ゆっくりと僕たちの関係に歪を産み始めていたから。僕は早く、この状況をどうにかしなくちゃいけない。
少しずつ解決していても、全部じゃないのなら、まだ駄目。このままじゃ、駄目なのだ。……僕は、変わらなくちゃいけない。
しかし、なにをどうすればいい? 僕はいったい、なにを……。
「──To be, or not to be」
「──なに言ってんだ、テメェ」
冷たいツッコミを僕に入れた兎田君は、振り返ってもくれなかった。
ちなみに、僕がいる場所。それは、兎田君の仮眠室だ。困ったときの相談室みたいな感じだね。……前回はそれで、酷い目に遭ったけど。
僕は差し入れとして持って来た缶コーヒーを、兎田君に手渡す。
「そろそろ僕も変わらなくちゃと思ってね。いつまでも弱い僕じゃいけないなぁって」
「へぇ。……っつぅか、なんでそれをわざわざ俺様に言うんだよ。ネズミ野郎にでも言ってろ。その方が喜劇らしいだろ」
「僕、喜劇のつもりで喋ってないんだけど……」
「そいつは驚愕だな。あと、俺様はブラックコーヒーが飲めねぇんだよ。テメェのミルクティーと交換しろ」
「なんて自分勝手! 別にいいけど!」
ブラックコーヒーを愛飲していますって雰囲気を漂わせているくせに、なんということだ。しかし、人を見た目で決めつけるのは良くないね。反省だ。
ペットボトルのミルクティーを受け取った兎田君は、お礼も言わずにキャップを開ける。……いや、うん、別にいいけどね、うん。
僕も僕で缶コーヒーのプルタブを引きつつ、言葉を続ける。
「でもね、最近ちょっとだけ思うんだ。『もしかして僕、結構トラウマを克服できてきたんじゃないかなぁ』って」
「へぇ」
「あっ、信じてないでしょ? だけど、割と本気だよ? 子日君のおかげで、僕は確実に変われている。現にこうして、主任君と恋バナをできているのが証拠だよ!」
「へぇ」
なんてワンパターンな相槌だろう。本当に聴いてくれているのか、疑問だ。
……まぁ、いいかな。兎田君がこういう人だっていうのは、入社した時から知っていたしね。
「後は、主任君以外の誰か──例えば、竹虎君とか。そういうふうにどんどん恋愛に関する視野と言うか、話題ができる人を増やしていく。そうすれば、僕は最終的にトラウマを克服できる! ……と、思うんだけど。主任君はどう思う?」
「知るか」
「あっ、ちゃんと話は聴いてくれているんだね」
なんだかんだで優しいよね、兎田君って。現に、僕を力尽くで追い出そうとしないところとか、優しいと思うよ。……えっ、もしかして兎田君に対しては【優しさ】のハードルが低すぎるのかなっ?
なんてことを考えていたせいで、一瞬だけ聞き逃してしまったのだ。
「なら、そろそろ言ってもいい頃合いだな」
ペットボトルをテーブルの上に置いた兎田君を、振り返る。
「主任君? 今、なにか言った?」
僕がそう訊き返すと、すぐに。
「──ウシ。俺様は、テメェが好きだ」
兎田君は、たぶんさっき僕が聞き逃したのとは違うだろうセリフを、僕に向かって告げた。
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