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続 5.5 : 7

 今、俺様はどんな顔をしているのだろう。自分のことを誰よりも理解しているはずなのに、今はそんなことすら分からない。  ユキミツはさらに俺様へ近寄り、そのまま俺様を見上げた。 「だからってワケじゃないんですけど、なんて言うか。……今日の四葉サンは、ちょっと心配で。この間のお礼とか、そんな立派なものではまったくないのですが。むしろこれは、ただのお節介とも言えるのですが」 「……クソが。まだるっこしいんだよ。結局テメェは、俺様になにが言いてぇんだよ」  ジッ、と。まるで、射貫くかのように。 「──大丈夫、ですか? なんだか、元気がないじゃないですか」  的外れなことを、口にしやがった。  馬鹿馬鹿しい問いを投げられ、思わず口角を上げてしまう。 「テメェ。この前は『顔を見ただけでなにが分かるんだ』って怒ってたじゃねぇかよ。それなのに、今になってなんだ? 雑なこと言って俺様を絆そうとしてんじゃ──」 「──テキトーじゃなくて、確信を持って言ってますよ」  そうか、そうか。それなら……残念だったな、チビ。マジで俺様は落ち込んじゃいねぇんだよ。  落ち込む理由なんか、どこにもない。ウシの変化に対して思うことがあったとしても、それは落ち込みなんかじゃ……。  ……ウシが変わったことによる失望と、喪失感。もしかして、俺様はこの間のユキミツと似たような顔をしていたのか? 「オレ、あれから四葉サンのことをもっとちゃんと見てみようと思ったんです。そうしたら、ちょっとずつだけど四葉サンのことが分かってきました。これは、今までオレがやろうともしていなかった【他人への関心】ってやつの第一歩で、まだまだ不完全なものです」 「……そうかよ」 「だから、間違いかもしれないです。勘違いかも、しれないんですけど。……それでも、心配なのには変わりないので」  ジッと、ユキミツを見つめ返す。以前までならすぐに目を逸らすか、もしくは逃げ出していたくせに。 「ほら、元気がない! いつもより、睨み方が穏やかですっ!」  訳の分からない物差しで答えを導き出し、ユキミツはニコッと笑った。  ……ウシがいつも浮かべていた、不愉快な笑顔。それとユキミツの今の笑顔は、全然違うように見えて。……なぜだか、不思議と。  ──コイツの顔って、こんなに可愛かったか? などと、思ったりした。  思えば、名前を褒められたのは初めてだ。俺様と何度か関わったというのに逃げ出さない奴も珍しいし、こうして俺様に頼んでもいない演説をしてきた奴だって少ない。  ウシは、別だ。俺様と同族なのだから、ある程度ウマが合うのは当然だろう。  しかし、ユキミツが言っていた『失恋』は違うぞ。なぜなら俺様は、ウシが全くもって好みじゃねぇ。見ていると虫唾が奔る。分かり易く言うのであれば『生理的に無理』だ。おかげで入社式の日に蹴りを入れ、すぐさま上司に説教をされたくらいなのだから。  だが、ユキミツはどうだろう。チョロチョロ動いているのが、なんだか一周回って愉快に思えてきた。  こんなに、俺様のことを見てくれたのは……振り返ってみればコイツが、初めてで。 「……ユキミツ。テメェ、前に『三股して全員に振られた』って言ってたよな?」 「聴いて驚いてください! なんと先週、別の子たちに二股して振られました!」 「アホかよ。……で? 今はどうなんだ」 「残念ながらフリーで、右手が恋人ですわ。まぁ、オレレベルになれば? 両手を恋人にできちゃ──」  ダンッ、と。通路に響いたのは、鋭い音で。 「──なら、俺様のモノになれ」  その音は、ユキミツを逃がさないために壁と俺様の間にユキミツを閉じ込めた音だった。

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