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続 5.5 : 8

 ビャッと、ユキミツが豪快に体を震わせた。 「ギャッ! わっ、忘れかけていたというのにッ!」 「あァ? なにをだよ?」 「四葉サンがキ、キキッ、キッ、キッス! オレにぷちゅっとしてきたことをですよッ!」 「──はぁ? そんなことしたか?」 「──いやアンタは憶えておけよッ!」  キスなんかしたか? ……まぁ、どっちでもいい。これから数え切れないほどすればいいだけだ。ハジメテに興味はねぇ。 「一回してるなら、問題ねぇな。ユキミツ、顔を上げろ」 「なんでッ! なんでそうなったのッ! って言うか、えっ? さっきまでメッチャ怒ってたじゃんっ! なんで──ギャァーッ! 壁ドンからの顎クイはやめてェエッ!」  コイツ、マジでうるせぇな。下心を抜きにしても、口、塞いだ方が良くないか?  顎を掴むも全力で顔を背けるユキミツに対して不満は募るが、どうやら言い分があるらしい。……仕方ねぇな。一度だけ、ユキミツに発言権を譲ってみようか。 「なんだよ」 「やっ、えーっと、えーっと! いっ、一人称! 一人称が『俺様』なのはちょっと威圧的で怖いです! いやぁ困ったなぁ~! オレ、恋人には可愛さを求めちゃうタイプなんですよねぇ~っ!」 「──なら、変える。今日から『ボク』って呼んでやるよ」 「──まぁ可愛らしいッ!」  問題は解決したようだな。よし、キス──なんでだよ、顔を背けんなよ。  ……それにしても、他人の一人称なんてよく覚えてるな、コイツ。 「少女マンガ的展開に突入しかけていますが、そもそもオレたちそういう関係じゃないからァッ!」  なるほど。ユキミツの一人称は『オレ』か。……よし、覚えた。  なおも顔を背け続けるユキミツを見つめると、またしてもユキミツはアワアワと口を開き始める。 「まっ、ままっ、待ってくださいッ! ほ、ほら! オレの名前! オレの名前は【幸せが三つ】なんですよ! だからホラ、オレと四葉サンだけじゃふたつ──」 「──孕ませてやるから安心しろ」 「──不安しかねぇッ!」  文句の多い奴だな。そんなに子供が欲しいならテメェが産むか、養子を取るとかすればいいだろうが。 「だいたい、なんでオレッ? 四葉サンは牛丸サンが好きだったんじゃ──」 「そんなこと言ってねぇよ。勘違いしたのはテメェだろ」 「じゃあなんでッ! ますますなんでッ! なんであの色男よりチビでバカで業績も負けているオレなんですかァ~ッ!」  なんだ、ちょっと意外だな。ユキミツ、自己評価低いのか。低いにもほどがある気もするが、予想外だ。  ……しかし『なんで』か。 「おれさ──じゃ、なくて。……ボク、が。ボクが、ユキミツの言葉に感動して。それで、気に入ったから。この先の人生でテメェが隣にいないと、かなり物足りねぇ気がする。……ユキミツじゃないと、駄目だと思ったからだ」 「っ!」 「チビなのも、こっちとしてはアリだ。可愛いだろ。あと、馬鹿なのはどうでもいい。こっちは【全人類、ボクよりも馬鹿だ】って思想で生きてきたんだぞ、嘗めんな。そこは問題にもならねぇ。あと業績は気にすんな。協力してやる」 「えっ、あっ、あうあうっ」  うわっ、ビビッた。ユキミツの頭から突然、ポンッと煙が出たぞ。マジでコイツ、ヤバいな。  ……まぁ、そういうところが俺様──ボク、の、心を動かしたんだが。

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