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続 6 : 3

 幸三の勝利に、俺はパチパチと拍手を送る。これにはさすがの幸三も喜色満面──ではなく、どこか悲しそうだ。  だが、俺たちとしては感慨深いものだぞ。 「いやぁ、凄いな、幸三。ついに営業部の元エース、牛丸先輩に勝ったぞ。……困りましたね、先輩。後任である幸三に負けちゃいましたよ?」 「えへへ~っ、負けちゃったぁ~っ。悔しいなぁ~っ」 「営業部は安泰みたいですねー」 「みたいだねぇ~っ?」 「──やめてッ! 猛烈にやめてッ!」  兎田主任となにがあったのかは知らないが、気に入られるのは納得だ。先輩も相当だが、幸三も揶揄うとかなり楽しいからな。むしろ、今まで兎田主任に弄ばれていなかったのが不思議なくらいだぞ。  さめざめ、しくしく。幸三は眼鏡もろとも顔を手で覆いながら、泣いている。……どうやら、いじめすぎたらしいな。そろそろ、フォローのひとつでも入れておこうか。 「──まぁ、好きこそもののなんとやら、だよな」 「──追い打ちもやめてッ!」  おっと、そろそろ仕事の時間だ。幸三いじめを切り上げなくては。 「困ったことがあればなんでも言ってくれ、幸三。いつでもこの、自慢の後輩──営業部の元エースを貸してやろう」 「任せて、竹虎君っ! 喋っているうちに自分の心と向き合えるようになれるはずだよっ!」 「そんなMCバトルみたいな方法でオレの心を暴かないでッ!」  いいじゃないか、MCバトル。パーリーピーポーで軍師なあのアニメ、最高だぞ?  ……だが、そうか。幸三、兎田主任のことが気になってるのか。前に俺と先輩の関係を知っても『偏見がない』とは言っていたが、それはそういうことだったらしい。  いや、待てよ? だけど、確かに幸三は『ホモはイヤ』と泣いていたはず。……なんだよ、ツンデレか? 面倒くさいなぁ。 「ハッ! なにか今、子日君が壮大なブーメラン発言を心の中でしていた気がするよ!」 「──黙ってろ敗者」 「──うわんっ!」  先輩を黙らせるつもりが、またしても託児所のできあがりだ。まったく、俺はベビーシッターじゃないと何度言えば分かるんだよ。 「とにかく、もう休憩時間が終わるぞ。幸三は午後から営業があるんじゃないのか?」 「そうだった! 一時半に出発だった!」 「じゃあ早く戻れよな」  慌てて椅子から降り、幸三は使っていた椅子をもとの場所へと戻す。 「……あっ、ブン!」 「なんだよ。まだなにかあるのか?」  そのまま出て行くかと思いきや、幸三はクルリと俺の方へ戻ってきた。  そしてガシッと俺の肩を強引に組み、距離を縮めてくる。……オイ、やめろ。隣のベビーが泣きそうな顔をしている。  ……だが。 「ブン、オレさ。……オレもさ、頑張るよ。だから、オレは今ようやく、ようやく今になって、ブンを応援できる。……ブンが変わってくれて、嬉しい。ブンの変化が、嬉しい。オレはブンの親友として、全部を応援するよ」  幸三が、あまりにも真剣な様子でそう耳打ちするから。 「幸三……っ?」  妙な感動をしてしまった俺は、幸三を注意できなくなってしまった。  正直、幸三がなにを思ってこんなことを言ってきたのか。俺は、理解できていないのだろう。  だがそれでも、幸三にはなにかしらの革命が起こったらしい。それが兎田主任のおかげなのかは分からないが、きっとこれはとてもいいことなのだろう。 「それと、もうひとつ……」  幸三は俺の肩を抱いたまま、さらにコソッと耳打ちしようとた。  いったい、今度はなんだろう。真面目な話が続くと理解した俺は、幸三の言葉に耳を澄ませる。 「──頼む、ブン。オレに脱処女した時の話を聴かせてくれないか?」 「──なんでだよ嫌だよふざけんな」  ──コイツ、仕返しか!  ……って言うか、なんで俺が脱処女したことを知ってんだ! 兎田主任だよな、知ってるわクソがッ!  馬鹿なことを囁いた幸三に正義の鉄槌──またの名を【鳩尾クリティカルヒット肘打ち】をお見舞いし、そのまま俺は午後の仕事へと戻るのであった。

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