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続 6 : 12

 しょんもりとした様子で帰ってきた先輩は、妙に脱力していると言うか、なんと言うか。……ポケーッと、していた。  一先ずリビングへと移動した俺たちは、並んでソファに座る。先輩が買って来てくれた夕食と思しき買い物袋は、とりあえずテーブルに置いておきつつ。  ソファに座った先輩は、この数時間でなにがあったのか。それを、もにょもにょポソポソと話してくれた。  全てを聴き終えた俺は、背を丸めている先輩を見つめながら、話をまとめ始める。 「つまり、先輩の話をまとめると。……先輩にトラウマを植え付けた張本人である女社長さんは、既に退院していたと」 「うん」 「そして先輩が会いに行けなかった入院中、毎日女社長さんのところに通っていた男性がいたと」 「うん」 「その男性が実はずっと前から決められていた女社長さんの婚約者さんで、だけど女社長さんは先輩のトラウマの原因ともなったあの事件を起こすほど、婚約者さんよりも先輩を好きになってしまっていたと」 「うん」 「でも女社長さんは毎日お見舞いに来てくれた婚約者さんの熱意に心惹かれて、今では先輩のことをそういう意味では特別には思っていなくて、むしろ恋のキューピッド的な存在として感謝をされていたと」 「うん」 「──大団円じゃないですか」 「──うん」  なんという、アフターでサイドすぎるストーリーだろう。皆の衆、お分かりいただけただろうか? 念のため、もう一度だけ復習をしよう。と言うか、俺のためにもさせてくれ。  女社長さんは幼少の頃から、婚約者という存在がいたらしい。社長令嬢なら、まぁなくはない話だろう。今のご時世に【親が決めた婚約者】という存在は、少々驚きだが。  だが、女社長さんは婚約者さんのことをさほど好きではなかった。むしろ、営業としてやって来た先輩を好きになってしまったのだ。まるで昼ドラのような展開である。これには、当事者である先輩も驚きだ。  女社長さんの気持ちは、徐々にエスカレート。そして、先輩にトラウマを植え付けてしまった【あの事件】を引き起こしたのだが……ここからさらに、物語は展開。  なんと、婚約者さんは女社長さんにマジラブ何千パーセント。入院中に何度も何度も、お見舞いに来ては交流を重ねた。  婚約者さんの想いは見事、女社長さんのハートを撃ち抜き……先輩が知らない間に、二人はゴールイン。つい先日、籍を入れたらしい。  これが、事の顛末。先輩が知った、真実。  ……なんか、なんだ。なんて言えば、いいのか……。先輩がもにょっと歯切れの悪い様子で今日の出来事を語り、その間ずっと、なんとも言えない表情を浮かべていたのにも……今では、納得しかなかった。  だが、そう、だな……。 「だけど、良かったです。もしもまだ先輩に固執していたらどうしようかと思っていたので」  素直に、安堵。不安感に苛まれていた俺としては、この気持ちが本心だ。  隣に座った先輩は依然として複雑な表情をしているが、すぐに相槌を打ってくれた。 「彼女……本当は何度も僕のところに来ようと思っていたらしいけど、あんなことがあったから来られなかったみたいでさ」 「そうだったんですね……」 「あっ、そうだ。これ見てよ。僕、三件も契約取ってきちゃった」 「──なんでトラウマの清算に行ったくせに、会社のために契約の精算なんてしてきてんですか」 「──なんでだろうねぇ」  しかも、先輩の帰りが遅かった理由がまたなんとも言えなくて。  俺たちはまるで示し合わせたかのようなタイミングで、同時にため息を吐いた。……勿論、安堵の、だ。

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