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続 6 : 17 *
嗚呼、犯される。言われなくたって、ハッキリ分かった。
俺は咄嗟に先輩の顔に手を伸ばし、そのまま頬を撫でる。なぜか、無性に触れたくなったからだ。
「先輩……っ」
見つめると、先輩が俺に顔を近付けてきた。キスをするためだ。
そっと口付けが送られると、不思議と胸がいっぱいになって。妙に締め付けられたその胸が、苦しい気もした。
「挿れるね、文一郎」
入り口に、先輩のモノが擦りつけられる。何度交わした行為でも、なかなか慣れないものだ。ピクッと、体が硬直してしまう。
それでも、不快感はない。逃げたいとも思わないし、ましてや恐怖なんかもなかった。
なんだか今日は、フワフワとしていたから。だから俺は、らしくないことを口にした。
「俺のこと、たくさん愛してください……章二、さん……っ」
ただ、そばにいただけ。俺にできたのは、結局はそれだけだ。
だとしても、先輩はそんな俺を『好き』と言ってくれた。俺に感謝をして、こうして俺を押し倒してきたのだ。
そのくらい、先輩は俺のことを好きでいてくれて。俺はそんな全部が嬉しくて仕方ないくらい、先輩が好きで……。
「俺は、章二さんを愛していますから……っ」
視界が、一瞬だけ揺れた。なにに対するものか分からない涙が、溢れそうになったのだ。
だけどすぐに、視界に映るものはひとつになった。……先輩がもう一度、俺にキスをしたのだ。
「んっ」
「僕も、君が好きだよ。大好き」
「あ、っ、ん……ッ」
「愛してる」
ゾクゾクと、鼓膜やら背筋やらが震える。無論、歓喜によって。
徐々に、先輩の熱が俺の内側に挿入されていく。狭い入り口を押しのけて、こじ開けて。けれどまったく、強引ではない動きで。
「あ、っ。んっ、章二、さん……っ」
「文一郎、大好きだよ」
「はっ、あっ。んっ、ん……ッ」
緩急をつけて、奥が犯される。先輩の熱を──愛を、体全てで分からせられるかのように。
咄嗟に、俺は先輩の背に手を回す。そうすることにもう、迷いはなかった。
「章二さんっ、章二、さ……ッ。んっ、あっ、あ、ッ」
「文一郎……っ」
だからなのか、そうじゃなくてもなのか。先輩もすぐに、俺の体を抱き締めてくれた。
嬉しくて、照れくさくて。……だけどヤッパリ、嬉しかったから。
「好きです、章二さん……っ。大好き、です……ッ」
まるで馬鹿の一つ覚えかのように、何度も何度も愛を伝えて。そうする度に言葉を返されたり、行為で気持ちを伝えられたり……。
今までのセックスで一番、満たされた気がするのは。……きっと、ベッドの上だからだけではないんだろうな、なんて。
「んッ、あ、あッ。……ひっ、んん……ッ!」
「……ッ」
呆気なく限界を迎えた俺は、ぼんやりとそんなことを考えたような、考えていないような。珍しくコンドームなんぞを付けた先輩の熱を受け止めつつ、俺は小難しいことを考えたがる思考をゆっくりと、溶かしていった。
……まぁ、あれだ。わざわざ言うようなことでもないが。
初めての【ベッドイン】で使用するコンドームの数は、ひとつではなかったということで。後のことは、察してくれ。
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