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続 6 : 18

 裸で、同じベッドに寝転がる。つまるところ【ピロートーク】というものに、俺たちは興じていた。 「僕のことをね、ちゃんと好きになってくれていたんだって。そして今は僕に対して、感謝をしてくれているんだって」  俺に腕枕をしている先輩が、静かに語る。無論、トークテーマは【本日のハイライト】だ。  全てが、片付いて。先輩には、思うところがあるのだろう。俺は静かに、先輩の言葉に耳を傾けた。 「凄いこと、だよね。……優しい、よね。僕はこんなにも、駄目な奴なのに……」 「そんな、ことは……っ」 「ふふっ、ありがとう。でも、僕は本当に駄目な奴なんだ」  いったいなにが、先輩の自己評価をそこまで下げているのか。やはり、俺にできるのは【清聴】だけのようだ。 「人って、怖いばかりだと思っていた。【好意】を怖がっていたくせに、根本で僕はずっと【人】を避けていた。そんな僕に、あの人は『ありがとう』って言ったんだ。……謝りにも行けなかった僕に、感謝の言葉を選んだんだよ。それってきっと、とても凄いことだ」  くるっと、先輩が俺に顔を向ける。至近距離で見つめ合う形になるも、不思議と今はいつもの不整脈が発生しなかった。  それは、きっと……。 「たぶん、彼女に謝られていたら。僕はきっと、こうして淡々とした感じで喋れなかったと思う。だから、感謝をしてくれて……嬉し、かった」  先輩の表情が、あまりにも幸福そうだから。余計なことを考える余地を与えないほど、満ち足りているからだ。  感謝を述べたその女性に対して俺が、個人的に思うことはある。なによりも『謝罪がほしい』と。俺がそう思ってしまったのも事実だ。  だけどこれは、先輩とその女性の問題。先輩が『嬉しかった』と言うのなら、これが一番、いい結末なのだ。……ちゃっかりと、契約も取ってきたし。 「彼女の癖、みたいなものらしくてさ。今日も、僕の右手首を握ってから、彼女は『ありがとう』って言ってくれたんだ」 「えっ。……そう、ですか」 「でも、怖くなかった。……これも、君がいてくれたからだよ」 「それは、さすがに買い被りすぎですよ、まったく」  まぁこれで、ネックだったことは全て解決したということで。なんとも締まりはないが、先ほど俺が言った通りである。皮肉のつもりではあったが、現状をまとめるのならばあの言葉が適切だろう。  ──これにて、先輩を取り巻く全ての物事は【大団円】だ。  ならば、これ以上しみったれた空気を漂わせるのは、よろしくない。俺らしくないし、先輩らしくもないのだから。  俺は、俺にできることをする。俺がしたいことを、先輩にすると。……そう、決めたから。 「──ところで、章二さん? 随分と嬉しそうに【俺以外の人に体を触られた】という話をしますね? ねぇ、章二さん? しかも、ベッドの上で……ねぇ?」 「──これはそういう話じゃないって分かってて言っているでしょっ!」  素敵で無敵な、大団円。こうした終幕を迎えられたのならば……そうだな、うん。  ……まったくもって、神頼みも捨てたものではないな。

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