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続 最終章 : 3

 そんなこんなで騒がしかった就業時間を終えて、現在。 「──さぁ子日君っ! 一緒に帰ろうっ!」  今日は、十二月の下旬。つまり、ついに迎えたクリスマスイブだ。  デスク周りの片付けを終えた僕は、ルンルンと上機嫌さを隠すこともなく、子日君に向けて手を差し伸べる。  同じくデスク周りの片付けをしていた子日君は、僕の手をチラリと一瞥。 「なんですか、この手」 「なにって、そんなっ。繋ぐために差し出した手に決まっているじゃない。……どうしよう、あははっ。自分から差し出したくせに、なんだか言語化すると照れるね……っ」 「あぁ、すみません。てっきり、金銭の要求かと思ってしまいました」 「僕って咄嗟にそう思われるような人間なのっ?」  あっ、あれぇっ? 今日ってクリスマスイブだよねっ? 恋人たちのクリスマスってもっとこう、甘々でフワフワな空気が自然と出来上がる日じゃないのっ?  想像と現実のギャップに風邪引き寸前な僕を見て、周りはどう思ったのか。ニコニコと楽しそうに笑っている。  すると、一人の女性職員が僕に声をかけた。 「牛丸さんは子日さんとクリスマスデートですか?」 「うん、そうだよっ」 「違います。ただご飯を食べて駄弁るだけです」 「えっと、たぶんそれを世間一般では【デート】と言うのですが……」 「──屈辱的だ」 「──どうしてっ!」  近くを通りかかった女性職員のナイスすぎる発言にも、子日君は相変わらずドライだ。  でも、僕は分かっているよ。ズバリ、子日君は照れているだけ! まったくもう、僕の子日君はツンデレさんだからなぁ。ふふっ、そんなところも可愛い──。 「食事をしてお喋りをしたから【デート】って、じゃあ宴会は【乱交】になるじゃないですか」 「あははっ。その発言、なんだか牛丸さんみたいですねっ」 「──屈辱的だ」 「──どうしてっ?」  あれぇっ! もしかして、もしかしなくても素っ? 本気のレスポンスをしているのかなぁっ?  なぜか女性職員に無言のエールを送られた僕は、慌てて子日君との距離を詰めた。 「えっ、ど、どうしてっ! どうして今日はそんなに辛辣なのっ?」 「いえ。俺はいつも通りですが」 「三割増しで辛辣だよっ!」 「結構細かく分析しているんですね」  うぅ、どうしてっ! 今日は待ちに待った、子日君とのクリスマスデートのはずなのに!  さすがの僕もドヨンと落ち込み、子日君にもたれかかる。子日君は「近いのですが」と言い、僕の肩を掴んで──。 「──いちいち『デートだ』と意識していたら、変な気分になるじゃないですか。これでも、緊張しているんですよ。……先輩の、馬鹿」  ポソッと、そんな囁きを送ってから。子日君は僕の肩を、押し返した。  すぐさま僕は顔を上げ、子日君を見る。じっくりと彼の顔を見て、僕は自分の馬鹿さ加減をようやく理解したのであった。  だって、あの子日君が……。 「ジロジロ見ないでください。一緒に出掛けるの、やめますよ?」  うっすらと、顔を赤くしているのだから。 「……ご、ごめんね」 「分かればいいです」 「──今すぐセックスしたくなっちゃった。クリスマスデートを前提に抱かせてください」 「──黙れこのヘンタイ」  なんだか、僕の調子もおかしくなっちゃいそうで。僕は原点回帰し、努めて普段の僕らしく、素直な欲望を口にした。

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