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オマケ 2 : 3
周りの職員から『今日が牛丸の命日か』なんて思われつつ、仕事をこなすこと数時間後。
「やっと二人きりになれましたね、先輩」
「そ、そうだ、ねー?」
「こうして、独占できて……嬉しいです、章二さん……っ」
「どひゃあっ!」
僕はなぜか、子日君が暮らすアパートの一室でピトッと。可愛らしく甘えてくる子日君に、身を寄せられていた。
僕の腕に身を寄せつつ、子日君は頬を赤く染めている。常々『子日君の顔は仮面でもはめているのかな』と思うことはあったが、まさかこんなにも変幻自在に頬の色を変えられるなんて……。まさか、本当に仮面かなにかをはめていらっしゃいますか?
「先輩? もしかして、俺がこうしてくっつくのは……不快、でしょうか」
「えぇっ! いっ、嫌がるわけないよっ! 凄く嬉しいっ!」
「でも今、叫んだじゃないですか……」
「推しからのファンサには誰だって叫ぶでしょう!」
赤らんだ頬が、すっと熱を引かせる。
ヤッパリ、子日君はアンドロイドかなにかなのか。なんて、本気で考えかけたその時──。
「──俺は【推し】じゃなくて、先輩にとって【恋人】なのですが……」
「──んんんッ!」
僕は顔のパーツを中心に寄せながら、叫び未満の歓喜を喉の奥から零してしまった。
難しいことを考えている場合ではない。このままでは、子日君の可愛さで僕は天に召されてしまう。心臓がもたない、内臓も原型を保てない。今日が本当に、僕の命日になってしまうかもしれないのだ。
僕はなんとか心を穏やかに保とうと努めつつ、子日君を見た。
「ねっ、子日君っ! あのね、僕にもしもなにか言いたいことがあったら、そのっ、あれだよっ! 気兼ねなく言ってほしいなっ! それはもう、本当にっ! ストレートにっ!」
「先輩に、言いたいことですか? では、先輩のお望みを教えてください。なんでも叶えたいです」
「なっ、ななっ、なんでもっ?」
「はい、なんでもです」
それはつまり、僕が『一緒にお風呂に入って』と願ったら叶えてくれるってことっ? いいのっ、合法っ? これって合法なのっ?
他にも、僕があんなことやこんなことを──って、駄目だよ、駄目! なにを考えているんだ、僕はっ! こんなの、まるで催眠術をかけてエッチなことを強要する最低な男みたいじゃないか!
……と、考えて。ようやく、僕は気付く。
──もしかしてこれって、催眠術かなにかなのでは? と。
現実では、きっと起こり得ない展開。ならばなぜ、僕はそれを『ありえる』と考えているのか。その答えは、簡単だよ。ヒントは【僕の同期】だ。なんて便利な単語だろう。もう答えじゃないか。
いやいやでもでも、子日君に限ってそんなことは──。
「俺に頼みたいこと、なにもありませんか?」
「そっ、そそっ、そんなことはっ!」
「だけど先輩、いつもならもっと食い気味でなにかお願いしてくれるじゃないですか。……ヤッパリ、慣れないことをするものじゃないですね。困惑させてしまったのでしたら、すみません」
「困惑なんてっ、そんなことないよっ!」
だっ、駄目だ! 子日君が落ち込んでいると、笑顔にしてあげたくなってしまう! 催眠術疑惑についてあれこれ考えている場合ではなくなっちゃうじゃないか!
頼み事、頼み事……! なにか、なにか答えなくちゃ。子日君が自責の念に駆られでもしたら、僕は……っ!
「──えっ! えーっと、えーっと! ……ね、子日君のエッチな写真が欲しいなぁっ! ……とか、あはは、ははっ!」
焦りと、下心と、他にも色々と。許容量以上の情報を突っ込まれ、その上で平静さを失ってしまった僕は……。
「……はいっ?」
さすがのデレ期キャンペーン中の子日君も困惑するほどの、至極愚かな欲望を口にしてしまったのであった。
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