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オマケ 2 : 5

 危なく、頭を壁にぶつけるところだった。そのくらい、僕は今の突進に『子日君とハグができる!』という確信を持っていたのだから。  僕はまたしてもぎこちない動きをして、不思議そうに眉を寄せている子日君を見上げた。 「……ね、ねぇ、子日君?」 「どうしましたか、先輩?」 「今、もしかして……。僕のこと、かわした……の、かな?」 「はい、かわしました。俺は今、先輩を避けましたね」  あっさり認められちゃったよ。いやいや、なんで? 「えっ、だって、あれっ? ……今日の子日君はデレ期突入中、なんだよね?」 「はい、そうですよ。先輩、大好きです。今日の俺は猛烈にデレデレです。赤字覚悟のキャンペーン中ですよ」 「わーいっ、嬉しいっ! ……じゃなくて! じゃあ、なんで僕をかわしたのっ?」 「突進されたら痛いじゃないですか。それに俺、今は先輩とハグをするよりも空腹を満たしたい気分ですし」 「くー、ふく? ……えっと、子日君は今デレ期、なんだよ、ね……っ?」  すっと、子日君はその場にしゃがむ。現実を一切受け止められていない状態の僕と、目線を合わせるためだ。  子日君は戸惑う僕を見て、なぜか……。 「──はい? 俺が先輩を好きなんだから、なにも問題ない【デレ期】でしょうが」 「──なんて勝手なデレ期ッ!」  眉を顰めて、心底怪訝そうな顔を向けてきたではないか!  ちょっと待って、ちょっと待ってよ! いくらなんでも唐突すぎないっ? 夢が醒めるのはいつだって唐突だけど、それにしたって突然すぎ──……いや、待てよ? 「もしかして、ようやく催眠術が解けたのかな! お帰り僕の子日君っ!」  そういうことなんだね! 僕は歓喜のあまり、子日君へと再度、ハグを求めて突進する。 「──はいっ? 催眠術? なんのことですか?」 「──突進をかわされながらの冷静な問いかけ!」  するとまたしても、ハグ失敗。子日君はサッと僕をかわしつつ、壁へぶつかりそうになった僕を見つめている。  浮かぶのは、果てしない困惑。僕が全身で疑問符を訴えると、ようやく子日君は僕の戸惑いに気付いてくれたらしい。 「あぁ、なるほど。もしかして、俺のデレ期があまりにも洗練されていて『こんなこと、子日君にできるわけがない。きっと兎田君に催眠術をかけられたんだ』とか思ったんですね」 「確かに洗練されてはいたし結論もそうなんだけど、別に僕はそこまで酷いことを考えたわけじゃ……」 「俺が突然、こんな愚行に走ったのには理由がありまして」 「ハッキリ『愚行』って言っちゃったなぁ」  子日君はしゃがんだまま、不意に。 「──いざ『先輩に触れよう』と思っても、なかなか気持ちの切り替えができなくて。……だから【デレ期】というぶっ飛び感情に任せて、勢いでスタートダッシュを決め込もうかと、考えてみまして」  僕の頬を、ツンとつついた。  どことなく、表情が暗い……気がする。子日君は僕の頬からすぐに手を引き、そのまま瞳を伏せた。 「気持ちの切り替えを華々しく達成して、今までの臆病さをスッキリと清算したかったのですが……。結局、恥の上塗りになってしまいました」 「子日君……?」  じゃあ、突然始まった【デレ期】は、つまり……?  ──僕の、ため? 「なんか、その。俺って本当、駄目ですね」  子日君は俯いたまま、本当に。心の底から、申し訳なさそうで。  ……そんな、こと。子日君が、落ち込む理由なんて……っ。 「──駄目じゃないよ」  子日君が、自分を『駄目』という必要なんか。  どこにも、ありはしないのに。

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