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オマケ 2 : 6
今まで、子日君は僕に極力『触れないように』と、気を遣ってくれていた。
それをいざ『今日から触れ合い解禁です』と言われたって、咄嗟に気持ちを切り替えられるわけがないだろう。
子日君に遠慮をさせていたくせに、僕はなんて無責任だったのか。俯く子日君を見てようやく気付くなんて、僕は良くない彼氏だ。
「子日君は、駄目なんかじゃないよ」
もしも仮に、どちらかを【駄目な男】と決めなくてはいけないのならば。迷うことなく、その汚名は僕に向かって駆け寄るだろう。
「僕は君に、到底赦されないようなことをした。それを君はなかったことにしてくれて、僕の情けない部分を知ってもそばにいてくれて、僕を支えてくれた。こんなにも立派な人が、僕にとって【駄目な人】なわけがない」
僕は子日君を、自分のためだけに襲おうとした。それをたった一晩で無かったことにしてくれたのは、他でもない子日君だ。
セックスの時、僕に縋りたいほど苦しくても決して僕に触れようとしなかった。なによりも僕の身を案じてくれたのは、子日君だ。
いつだって、そう。子日君が気にするのは僕で、優先してくれたのは僕だった。
そんな子日君が、駄目な人なわけがない。
だって、子日君は……。
「──君はとても、魅力的で。……素敵な人だよ」
僕にとって、唯一の人なのだから。
そんなことを言われるとは、思っていなかったのか。子日君は目を丸くして、僕を見つめた。
あぁ、良かったよ。すっかり、いつもの子日君に戻ったみたいだ。
もちろん、デレ期キャンペーンな子日君も可愛かったよ? だけど、ヤッパリ無理はしてほしくないかな、うん。……写真は、消さないけど。
「ねぇ、子日君」
「なんですか、先輩」
手を伸ばし、すり、と。子日君の頬を、撫でてしまう。
「キスしても、いい?」
指先から伝わる子日君の体温は、じんわりと温かくて。そんな、ちょっとした温もりにも『幸せだな』なんて、思ってしまった。
……なのだが。
「──駄目です」
「──えぇっ!」
まさかの、イチャイチャキャンセル! そんなっ、スッパリあっさりとっ! どうしてっ?
だって今、僕たちはすっごくいい雰囲気──。
「──俺から、章二さんにします。だから、章二さんからは駄目です」
……。
……はいっ?
「──愛していますよ、章二さん」
ちょ、ちょっと待って。……う、わぁ~っ。わっ、わわっ。
シュパッと素早く僕に壁ドンを食らわせた子日君は、そのまま「触ります」と一言告げて、僕の顎をクイッと持ち上げる。
そのままチュッとスマートにキスをするのだから、こっちの気分はヒロインだ。
「──デレ期、最高……ッ!」
くっ! 僕の恋人が、あまりにもカッコいい! 今すぐ抱きたい。カッコいいからこそ抱いて、可愛くしたいぞ……ッ!
「ねっ、子日君っ。ヤッパリ、僕からも君にキスがしたいよっ」
乙女になりかけた僕は慌てて子日君の肩を掴み、再度、僕からのキスを希望。
きっと、今度こそ子日君は許可をしてくれるはず。そしてそのまま、僕と子日君は年齢制限がかかるイチャイチャ展開へと発展──。
「──えっ、嫌ですよ。今の俺、そこまで望んでいません。個人的には今すぐ晩ご飯にしゃれ込みたいです。……ねっ、章二さんっ? 好きな人との食事なんて、とても高まりますねっ」
「──うわぁんっ! だから子日君のデレ期は勝手なんだようっ!」
──しませんでしたねっ、えぇっ! ヤッパリ、子日君は子日君だよ!
……ちなみに、翌日。事務所にて。
「先輩、喉が渇きました」
「そうなんだっ! じゃあせっかくだし、なにか冷たい飲み物を買ってくるね!」
「ありがとうございます。……あ、そうだ。先輩のデスクに置いてあった書類、勝手ではありますが処理をしておきました。確認だけお願いします」
「うんっ! ……って、あの量を一人でっ? うわぁ、ごめんねっ!」
「いえいえ。それと、先輩。今日の昼もお誘いしていいですか? 食堂で食べたいメニューがふたつあるのですが、先輩はそのうちの片方を頼んでください。いいですよね? いいですね。いいんですね。はい、決定」
「拒否権はナシなんだねッ?」
こんな感じで、相変わらずのツンツンっぷりだったのだけれど。
「「「──いつもの子日だ~!」」」
なぜか、課内は『今日も平和だなぁ』と言いたげな様子だった。
……デレ期キャンペーンは、いつだって大歓迎だけど。
──せめて、日頃のツンはもう少し減らしてほしいなぁ、なんて。傍若無人な恋人の尻に敷かれつつ、僕は思わず苦笑してしまった。
……ちなみに、さらなる余談をひとつ。
写真を強請った僕に対し、やはり思うことがあったのか。実は昨晩、突然【牛丸章二撮影会】が子日君のスマホによって開催されたのだけれど。……あー、うん、そうだね。
……ヤッパリ、その詳細は黙秘させてもらおうかな。
【先ずはツンを減らしてくれないかな】 了
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