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オマケ 3 : 2
食べ物のオーダーを終えた後、先輩は酒を飲みながら感慨深そうに語り始めた。
「忘年会らしく今年を思い返してみたけれど、この一年は色々なことがあったよねぇ……」
「えぇ、そうですね。とても濃い一年だったと思います」
先輩の呟きに、俺は頷く。今までの人生でここまで密度の高い一年が、俺にはないからだ。
幸三も同じことを思ったのか、ジョッキを片手にうんうんと頷いている。そうだった。幸三は異動もあったし、公私ともに大変な一年だったからな。俺とは同意の重みが違っても当然か。
「確かに、そうだな。俺様もテメェと同意見だ」
「えっ、本当にっ? ……って、そうだよね。なんだかんだで、もしかするとこのメンバーの中で兎田君が一番、変化のあった一年を過ごしたかもね」
「なに言ってんだよ、テメェも同じだろ。それにテメェとだって、色々あったからな」
「兎田君……っ」
おっ、おぉっ? なんだか、先輩二人がしんみりといい感じの雰囲気を醸し出しているぞ。
なんと言っても、二人は同期。俺たちには分からない感慨が、きっと二人の間にはあるのだろう。
普段は凸凹コンビだとしても、やはり同期なのだ。心のどこかで、二人は強く結び合って──。
「──愉快な理由で左遷されたテメェの人事異動はクッソ笑ったし、トラウマ払拭に奔走する様は愉快極まりなかったし、挙句の果てには俺様の仮眠室で『不特定多数の人間を愛したい』って発言して、さすがの俺様も肝を冷やして……。ウシとの一年は、本気で濃かったよな」
「──先輩。俺、最後の話を知らないのですが」
「──明らかな曲解だよっ!」
前言撤回。やはり、兎田主任は先輩のことが心底お嫌いなご様子だ。
俺も知らない浮気宣言を聞き、さすがに距離を取る。すると「違うんだよぉっ!」と先輩が泣きついたので、一先ずこの話題は保留としよう。リークしてきた相手が他の人ならまだしも、兎田主任だからな。悪意のコーティングがある可能性も否めない。……あくまでも【保留】だけどな。
そんな中、兎田主任の発言を理解できていない人物が一人。
「左遷? トラウマ? ……えっ? なんの話だ?」
「ハッ、そうだった! なっ、なんでもないぞ、幸三! ……あっ、幸三っ! 料理が届いたな! テーブルに並べようそうしよう今すぐ並べよう!」
「なっ、なんか分かんねぇけどブンの圧が怖いぞっ!」
ナイスタイミングでの料理到着だ。俺と幸三は手分けして、テーブルの上に料理を整頓し始める。
兎田主任は愉快気に笑っていて、先輩は俺の隣で丸まっていて……。本気で面倒くさいな、この同期コンビは!
「子日君、僕を癒して。僕の心はもうボロボロだよ、癒して……」
「あぁはいはい分かりましたよ。俺が先輩の食べる物を皿に載せてあげますから、それで機嫌を直して──」
「──愛してるゲームをしよう、子日君」
「──酔っぱらいは黙れ」
なぜだろう。誰が誰と話しても、話題がおかしな方向にしか発展しないぞ。
俺以外の全員が酒を飲んでいるからとか、そもそもメンバーがそういうタイプだからとか。そんな理由ではないことを、どうにか祈りたい。
イケめいた真顔を向けてくる先輩を睨みつつ俺は、何度目か分からない神頼みをしそうになっていた。
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