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オマケ 3 : 3

 俺は知っている。こうなった先輩は、とてつもなく強情だということを。  先輩は、愛してるゲームという珍妙極まりない遊戯がしたいらしい。この真顔は、断じて引かない顔だ。顔が良くなければ唾のひとつくらい吐いてやりたいものだぞ、本気で。  だが俺は、いくら相手が傷心中の先輩だとしても、前提に【ゲーム】があったとしても。……『愛してる』なんて、言いたくない。人目があるとかを抜いて、シンプルに恥ずかしいからだ。  しかしここで拒否を続けると、先輩の機嫌は直らない。俺にはなんの責任もないというのに、なぜこんな面倒極まりない役回りを押し付けられてしまったのだ。相手が兎田主任だからか、仕方ないな。  ……よし。ならば、仕方ない。 「分かりました。やりましょうか、そのキテレツゲームを」 「えっ、本当っ? ヤッター、嬉しいっ!」  無邪気に、先輩が笑っている。……クソッ、可愛い笑顔じゃないか。  笑う先輩を眺めていたとしても、俺はポーカーフェイスを崩さないぞ。ここで表情を変えてしまえば、折角思いついた【作戦】がパーになるからだ。 「ただし、一回だけです。そして、先行は先輩です。この条件が絶対ですからね」 「うんっ、分かったよっ! ありがとう、子日君っ!」  子供みたいな顔で笑うなよ、可愛いだろう、チクショウめ。  俺が人差し指を伸ばして『一回だけ』と伝えても、先輩は嬉しそうだ。すぐに、先輩は兎田主任と幸三に顔を向ける。 「兎田君、竹虎君! 審判、よろしくね!」 「嫌に決まってるだろ。なんで俺様たちがそんなこと──」 「──後で君たち二人の審判を僕たちがするから!」 「──ウシ、ネズミ野郎。言っておくが、俺様のジャッジは厳しいぞ」 「──あれぇッ! 秒でオレも巻き込まれたッ! なぜッ!」  幸三、悪いな。そもそもはそっちの人が始めた面倒事なんだ。監督不行き届きということで、そちらにも被害を被ってもらうぞ。  念のため再確認するが、俺は自分で言うのが照れるから言いたくない。いくら可愛い笑顔を向けられたって、この姿勢は変えないぞ。  ──だから、俺は無言のまま【作戦勝ち】を狙った。 「えっ? ね、子日君……っ?」 「さぁ、どうぞ。先輩の番ですよ」 「あっ、う、うぅ……っ」  ──秘技、上目遣いで先輩を見つめる作戦。  大人の男がやるにはかなりキツイ絵面だが、言葉で恥を晒すよりまだマシだ。兎田主任と幸三には『先輩を見つめている』という構図に見られている程度なはずだから、そっち側の意味合いでは軽症だと信じよう。  ──題して。作戦名は【先輩のターンで敗北させよう】だ。  先行、先輩のターン。俺は上目遣いを続行しながら、紡がれる愛の言葉を待った。 「あ、あ……あい、し、てる……よっ」  瞬時に赤らむ、先輩の顔。アルコール所以ではないその赤さに、当然ながら判定はと言うと……。 「あれだけ威勢が良かったくせに、結果はこれかよ。ウシの負けだぞ」 「そうッスね、四葉サンの言う通りッス。牛丸サンの負けですよ」 「よしっ!」 「うわぁあんっ! 酷いよ子日君っ!」  赤面しながら「愛してる」と言ったのだから、俺の勝利は確定だった。  ガラにもないガッツポーズなんぞを見せつけ、喜びを表現。淀みのないジャッジで、俺は勝利を収めたのであった。

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