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オマケ 3 : 4

 と言うわけで気を取り直し、大忘年会の続行だ。  そもそも、俺は【忘年会のマナー】なんかは分からないが、所詮は年末にパッと騒ぐための理由をつけた宴会だろう? ならば、メインは【会話】なはずだ。三人に任せてばかりいないで、俺からも話題を提供してみよう。  ……ははっ。こんなふうに相手のことを真剣に考える日がくるなんて、驚愕だな。過去の俺に見せてやりたいくらいだ。  よし。見ていろよ、過去の俺。今の俺が繰り出す、華麗な話題提供術を! 「──ところで、幸三と兎田主任はもう付き合ったのか?」 「──先輩兼恋人を隣でギャン泣きさせながらなんてことを訊くんだこの悪魔はッ!」  おぉっ。凄いぞ、過去の俺よ。提供した話題は大盛り上がりだ。大興奮のあまり、幸三の顔は真っ赤になっている。 「俺様とユキミツの関係性か。そうだな……」 「まっ、待ってくださいよ四葉サン! 変なこと言いませんよね? ねっ?」 「あぁ、分かってる。ボクはまだ、テメェからハッキリとした言葉を貰ってないからな」  ……さて、お気付きだろうか。兎田主任が『俺様』と『ボク』という一人称を、相手が幸三かそうじゃないかで使い分けている点に。自己改革の途中らしいが、近いうちにこの人の一人称は『ボク』で統一されるに違いない。いやはや、涙ぐましい努力だ。  しかし、なるほど。どうやらまだ、二人は交際を始めたわけではないらしい。サッサとくっつけばいいのにな、本当に。じゃないと、幸三を揶揄うためのネタが増えないだろうが。 「まぁ、ネズミ野郎は知りたがってるみたいだしな。ユキミツのダチだからな、特別に教えてやるよ」  なんとなく関係性に察しはついたものの、どうやら兎田主任は声に出して現状を伝えたいらしい。いいぞ、聴くさ。こういう場面では恋バナをするのが主流なんだろう? 学生時代の元カノがそう言っていた。  そして、兎田主任はどことなく嬉しそうに笑いながら……。 「強いて言うなら『ユキミツの処女はボクが予約してるぞ』くらいだ」 「そんなものないです!」 「──は? テメェ、どこで処女を散らせたんだよ。相手は誰だ、社会的に殺してやる」 「──あぁーッ! 違う違う待って待って助けてヤダーッ!」  ……なんか、想定と違う返答を口にしたな。  全力で兎田主任の問題発言を誤魔化そうとする幸三に噛みついたのは、やはり兎田主任だった。幸三の襟を力任せに掴み、鋭く睨んでいる。  不穏な空気を察知したのか、俺の隣で泣いていた先輩もむくりと顔を起こした。 「えっ、ちょっとごめんね。どういう状況?」 「幸三が面倒なツンデレだって話ですよ」 「イヤ違う! 違うから! ツンデレとかじゃないんだからな! 勘違いしないでくれよな!」  そんなテンプレート通りのツンデレ発言をされてもなぁ……。  なんとか兎田主任を宥めた後、幸三は自身の胸をホッと撫で下ろした。うぅん。話題を提供するというのは、なかなか難しいな。  だが幸三に構ってもらったからか、兎田主任の機嫌は上々だ。 「と言うわけで、テメェら。ユキミツに手を出そうとするんじゃねぇぞ」 「ちょっ、や、やめてくださいよっ! ……そっ、そんな恥ずかしいことを言うなら! オレも四葉サンの処女、予約しちゃいますよ!」 「なんだよ。ボクの処女が欲しいのか?」 「そっ、それはっ。オレは別に、なんかもう、四葉サン相手なら別になんでもいいかなとか、思わなくもなかったりするッスけど……っ」 「──俺たちはなにを見せられているのでしょうか」 「だけど、残念だったな、ユキミツ。ボクは非処女だ」 「えっ、非処女……っ? な、なんで、そんな……っ。うっ、うぅ……っ」 「ハハッ! 嘘に決まってるだろ? ヤキモチで泣いちまうなんざ、テメェは可愛いなぁユキミツ?」 「なっ、泣いてないッス! これは汗ッス! ……けど、その。褒めてもらえるのは、あんまり、悪い気がしないと言いますか……っ」 「──僕たちはなにを見せられているのかな」  馬に蹴られた方が、まだマシだったかもしれない。  他人の恋路に、興味本位で首を突っ込むのは金輪際やめておこう。おかしな雰囲気を醸し出す二人を見て、俺と先輩は心の中でそう誓った。

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