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第3話
メインディッシュは子羊のステーキだけど、その前の食中酒に赤ワインが出された。
このタイミングが一番良さそうだ。
指輪をテーブルに置いて、一世一代のプロポーズをする。
「あのさ、俺達もう付き合って2年になるけれど、そろそろ結婚を考える年になったというか…。つまり、…け、…けっ…」あともう少しで言葉が出るという時に、彼女が俺の目の前に右手を翳して制止する。
「愁、あなたは周りが見えないの?今私は盛大に注目を浴びてしまっているわ。そういう話はこのタイミングでは無いはずよ。」
じっと俺の顔を見つめる。
冷たい視線に、俺の心も凍てつきそうだ…。
温かい、ジューシーなラムチョップのステーキが運ばれ、この肉をガチャガチャ音を立て切っているところで、彼女が決闘を申し込む手袋よろしく、ナプキンを机めがけて叩きつけて席を立った。
「マナーのなっていない男は嫌いと言ったはずよ!信じられない、こんな恥。私、帰るわっ」
そう言って、ヒールの音も高く威嚇するような雰囲気のまま、店の入り口でコートを受け取ると、出て行ってしまった。
唖然としたものの、ハッと我に返ると追いかけなきゃ。
慌てて伝票を探すがテーブルには無い。どうしたらと焦る。
視線を感じて顔を上げると、さっきの壁の男が俺のテーブルの目の前に立ち、こちらを見おろしていた。
「連れは帰ったらしいな。真向かいに座ってもいいか?」
綺麗な顔だが、口角をくっと上げて、目はいたずらっ子のそれで嫌な予感しかしない。
「いえ、もう出るので…」
そういって断ろうとすると、くすりと笑い「マナーがどうとか言っているのが聞こえた。こういう時にどうするのか、お節介だが教えてやりたくてな。女にはあとで連絡すればいいだろう?少し付き合わないか。」
うむを言わせぬ覇気を纏い、どうぞと手を差し出すとニコッと笑い、店員に料理を下げさせ、彼女が座っていた席に堂々と座った。
これから何が始まるのか、この綺麗な男に見とれながらボンヤリと考えていた。
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