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第2話
「――あぁ。もっと……奥が、いい」
「奥が感じる?智也(ともなり)のいい所?」
ふらっと入ったシティホテルの一室には興奮を抑えきれないというような息遣いと、甘い喘ぎ声が響いていた。
バイト中に声を掛けられることなど決して珍しいことではないが、俺がその相手と一夜を共にするということは滅多にないことだった。
たまたま……が重なり、毎日のようにビアホールに通っていた夏生の誘いに乗った。
いつも身につけているスーツの上からは想像がつかないほど筋肉質でスタイルは完璧だった。
身長も一八〇センチはある。顔もそこそこイイ……となれば、俺だって断る理由はない。
もちろん事前に妙な性癖や病気がないとこは確認済みだ。
彼の愛撫は的確で、俺の感じるところをすぐに見つけ出した。
舌先で乳首を舐めながら、すでに繋がった場所をユラユラと揺さぶる。彼のモノは大きく、息苦しさはあったがいい場所を掠めた時は自然に声が漏れてしまう。
「んぁ……っ」
グッと腰を突き込み、最奥の壁を硬い先端で刺激されると、俺はシーツから背を浮かせて声をあげた。
「いいっ!んぁ……もっと、突いて」
「あぁ……智也の中、気持ちいい……っ」
重なった肌が汗ばみ、エアコンの設定温度を下げておけばよかったと後悔するほどだ。
俺は自分でも信じられないくらい彼のモノをしっかりと咥え込み、中を蠢動させた。
ズリュズリュと抽挿されるたびに完全に勃起した自分のペニスが大きく揺れ、蜜を撒き散らす。
その蜜を時折舌で舐めとりながら、夏生は熱っぽい目で俺を見下ろした。
「――この体、もうクセになりそう」
「俺も……っ!夏生の……イイッ」
断続的に与えられる快感に浮かされて、普段は絶対に言わないことまでも口にしてしまう。
もっと深い場所を擦って欲しくて、自ら腰を揺らし両手を彼の首に絡ませて、より体を密着させる。
夏生も余裕がなくなってきているのか大きくゆったりとしたストロークが忙しいものへと変わり、体が大きく振れる。
「あ、あぁ……はげ、し……っ」
「智也……はぁ……気持ち、い……イッていい?」
「いい……よ。出して……」
「中に?」
「うん……出してっ!はぁ、はぁ……俺も、イ…イキそ……」
夏生の大きな手が互いの腹の間に滑り込んでくる。嬉々として蜜を溢れさせている俺のペニスをそっと握り込むと激しく上下に擦りあげた。
「やぁ……っそれ、やらぁぁ」
グチュグチュと水音を響かせる後孔と、溢れ出る蜜を掌で伸ばす音が重なり、もうどちらのモノなのか分からなくなってくる。
夏生の背中に爪を立てて快感を追いかけていく。
彼もまた激しく腰を打ち付けて、汗を俺の腹に滴らせた。
「あ――イクッ。っく……あぁぁ!」
「んあぁ……はうぁぁぁっ!」
ビュクっと大量の白濁を放ったと同時に、俺の腹の奥で熱いモノが弾けたのが分かった。
ぶわっと容積を増した夏生のペニスが暴発したのだ。
「ふぁ……あぁ……」
じんわりと広がっていく彼の精液を感じながら、俺は小刻みに痙攣を繰り返してからぐったりとシーツに沈んだ。
夏生の射精は長く、すべてを吐き出して体をぶるっと震わせるまで少しの時間がかかった。
「――あぁ。離れたくない」
俺の上に倒れ込んだ彼の頭を軽く叩いて、額に張り付いた髪をかき上げた。
「さっさと抜いて。重い……退いて」
「キスぐらいさせてくれ」
「分かったから、さっさとしろ……」
唇を何度も啄みながら舌を差し入れてくる夏生の熱とは対照的に、射精と同時に賢者タイムに突入してしまう俺……。
恋人でもない相手とのセックスは、自らの性欲が満たされれば、あとの行為など無意味だと思っていた。
ナンパで――しかも夏に出会った男との関係は最悪だった記憶しかないからだ。
“ひと夏の恋”とはよく言ったもので、天候や気温が人間の気持ちを開放的にし、理性さえも緩くさせる。
ガードが甘くなったところを付け込まれて、後で泣くことになるのは毎回俺の方だった。
真夏の「愛してる」は嘘――。
夏生に言われたわけではないが、絶対に信じないと心に決めていた。
目を閉じてキスが終わるのを待つ。いつしか心地よく感じている自分がいた。
簡単に流されそうになっていることに気付いて、俺は彼の肩を両手で掴むと力任せに押しのけた。
「――もう、いいだろ?」
繋がっていた場所から力を失ってもまだ大きさを誇示する彼のモノがズルリと抜け、きゅん……と蕾が震えた。
それを悟られないように、濡れた唇を手の甲で乱暴に拭ってベッドを下りると、振り返ることなくバスルームに向かった。
ぽっかりと開いたままの後孔からトプリと白濁が溢れ、内腿を流れ落ちたが気にする余裕は俺にはなかった。
早く彼と離れたい……。
体を密着させている時間が長ければ長いほど、情が移ってしまうような気がして怖かったから。
夏生は優しかった。俺の嫌がることはしなかったし、何かにつけて気遣ってくれた。
そんな彼と一夜とはいえ、寝てしまった事を後悔した。
いっそ鬼畜めいたプレイを強要され、さっさと部屋を出て行ってくれた方がどれほど楽だったか。
「――智也。大丈夫か?タオル、ここに置いておくよ」
バスルームの扉の向こう側に彼のシルエットを見つけて、俺はシャワーの水栓レバーを“強”へ回した。
水量が増し、タイルの床に叩きつける水音で夏生の声はかき消された。
「優しくしないで……くれ」
頭上から叩きつける水飛沫の中で声に出さずに唇を動かす。
もうツラいのは嫌だ。夏の恋はしないって決めたのだから……。
ギュッと握った拳をタイルの壁に押し当てて、ぐっと奥歯を噛んだ。
夏生は通りすがりの男。彼だって俺の事なんて何とも思っていないはずだ。ただの遊び――そう、遊びだ。
だから――忘れよう。
まだ腫れぼったい後孔に指を突っ込んで、彼の痕跡を掻き出す。
何度も湯を掛けながら排水口に流していく。
たった一夜の熱と、迂闊にも夏生に揺れてしまった自分の弱い心と一緒に……。
渦を巻いて飲み込まれていく湯を見つめながら、俺はぎゅっと目を閉じた。
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