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第3話
高かった日が海の向こうに沈み、空には星が輝き出す頃、ドゥブルの鉄骨足場は旧モンドブル帝国から齎されたライトで照らされ、修道院より下に位置する酒場やモーテルの店名や看板が光り出す。
かつては修道院のみだけだった島と思えない程、旧モンドブル帝国の援助と圧力もあり、観光地化されたが、やはり断崖絶壁に聳え立つ修道院の辺りを見上げると、えもいえぬ深い闇で包まれていた。
『Bar chassis en acier』とモンドブルで使用されている言語で「鉄骨」を意味する単語を店名に掲げた酒場にはルスティが昼間、酒と野菜を運んだ店主がいた。
「ここには夜、初めて来ましたけど、女性はいないんですね」
見渡す……という程、広くない店内にはルスティ以外には船乗りらしき男が1人で酒を飲み、別の意味で船を漕いでいて、何ともむさ苦しい感じだった。
「まぁ、良いじゃねぇか」
昼間は『酒場は出会いと労いの場』を謳っていた店主は何でもなかったように、ブルアガヴェをグラスに入れ、ルスティに差し出す。
自分が昼間、汗水垂らして運んだ酒をまさか自分が飲むなんて、と思いはするが、反論する元気もなく、ルスティは店主に勧められるまま酒を飲んだ。
「そう言えば、なんでたって、こんな島にいるんだ?」
黙々と酒を飲み続けるルスティに、店主は昼間、気になっていたことを聞く。
実際、ルスティにはイスカという同い年の男がいた。彼は早々にこの島から出て別の国へ行き、貴族出身の令嬢と大恋愛の末、結婚。
今や、モンドブルの大資産家だった。
「そこまで行けば、大団円だな。そこまで行かなくとも、ここを出る方がここよりは生活は楽だろ」
ルスティはイスカの話は饒舌にしていたが、いざ、自分のこととなると、口を閉じてしまう。
ただ、普段は飲まない酒も回って、次第にルスティの口を開き始めた。
「実は、会いたい人がいるんです。名前も知らない人なんですけどね……」
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