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第4話
今から10年前、ルスティは足場の修理屋から運び屋になったばかりだった。
今よりもひょろりとした腕に体躯。積荷もそんなには持てなかったが、足場の修理というのは元々、身軽な少年がメインの仕事ということもあり、20歳を前に男は運び屋か船乗りかに鞍替えするのがこの島の常識だった。
「行ってきます」
1度に多くの積荷が持てない分、誰よりも早く仕事を始め、時間をかけて運び屋の仕事をする。ルスティはどんなに船場から離れた民家や断崖絶壁の修道院に何度も行き来を繰り返したある日、足場から滑り落ちてしまった。
幸か不幸か、積荷は既に運び終えた後で、足場から海までは数センチもない為、足場に戻れさえすれば、死ぬことはなかった。
だが、仕事の疲労からか、ルスティの腕も脚も思うように動かない。
「(ああ、死ぬなぁ……)」
助かりたい一心で手を伸ばした空に、身体を持っていかれていく海。
死にたくないけど、死ぬのを受け入れる他ない。そんな状況の中、ルスティは海面を突き破って伸ばされた手の甲が見える。
「ごほごほ、がはっ!」
ルスティは自分に向けられた手の甲を掴むと、海底からも天国からも離れて、足場へ戻ってくる。足場にへたり込み、咽せながら、足りなくなっていた息を吸う。一頻り、ルスティが息を吸い整えると、ルスティに手を差し伸べた青年が再度、手を差し伸べて、声をかける。
「どうやら、大丈夫そうだな? 立てそうですか?」
やや歪ながら十字型の痣がある手の甲。黒いローブから見え隠れする白い腕。ベージュとも淡い金色ともとれる髪。
それに、先程、助かりたい一心で手を伸ばした空の色でも身体を持っていかれていく海の色でもない深い青色の目。
声は年不相当にキリリとシャープな感じがするものの、年自体はルスティと同じくらいの青年で、全てが洗練された美しい青年だった。
「すみません、助かりました」
ルスティは青年に礼を言うと、青年は足早に立ち去ろうとする。
「待って! せめて、名前を……」
ルスティは青年を引き留めようとするが、青年は微笑むように口角を上げると、足場の先の喧騒の中へと消えてしまった。
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