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第5話

「…好きだよ」  思わず、渉は声に出していた。  一人残った講堂に、渉の声が響く。 「俺も、雨、好きだよ」  傘が必要なかったのは、その間、抱いていてくれたから。  雨音を聞くと、胸が高まるのも。  全部、癖になってしまったのは。 「…会いたいよ…」  会わないと約束を押し付けたのは、自分のくせに。 「俺の、バカ…」  何処かで、小さく雷鳴がしている。    鞄に課題を仕舞い込むと、渉は講堂を後にした。  雨に濡れる覚悟はできた。  いざ、雨に打たれる時になって、渉は躊躇していた。  鞄にしまったとは言え、中には大切な課題、楽譜が入っている。  激しく叩くような雨は、渉の覚悟をあっさりと崩してしまった。 「…もう少し、ここにいよう」  渉は、目を閉じ雨音に耳を傾けた。  雨音の合間に、その息遣いが聞こえてくるようだった。 「…抱いてよ…」  渉は、呟いた。  聞こえるはずもない呟きを、雨音に囁いた。 「抱いてよ…今のうちに」  雷が、鳴っているうちに。  雷鳴が、声を隠してくれる今のうちに。  瞼を透かして、雷光が見える。 「好きなんだ」  雨も。  あんたも。

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