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第3話

 中学二年でも受験対策は必須だ。恋愛沙汰であまりうかうかもしていられない。  昂輝と僕は同じ塾に通っている。その帰り、ファストフードで気だるく食事をしている時だった。  難しい顔をして唐突に昂輝が言った。 「和己、これ欲しいか?」 「え、あ、え、うん。いや、ううん。うん」  僕は慌ててどもってしまう。  差し出す手にあったのは昂輝のポートレートだったのだ。 「どっちだよ」  急に不機嫌になって昂輝は手を引っ込める。  スマホの画面じゃなくて印画紙に現像されたものだ。  そう言えば昂輝のお父さんは写真家だったっけ。  改まった昂輝がこちらを向いている写真。  この間髪を切ったばかりだから、その時に撮ったものらしい。  眉も太くて凛々しい。  いつも無表情が多い昂輝が珍しく笑っている。  自然で穏やかな微笑。  たぶん本人も気に入ってるであろう一枚だった。 「欲しいのか欲しくないのか」 「欲しい。欲しいよ。ちょうだい。昂輝の写真欲しい」  指先のポテトの油を必死に拭い、写真を押し頂く。  そりゃあ、欲しいさ。  好きな人の写真だもの。  ただ意外だったんだ。  クールな昂輝がそんな照れくさい真似をしてくれたことが。  そんな気持ちを僕に対して持ってくれたことが。  行動に移してくれたことが。  いつだって僕のほうが好き好き言ってたんだから。  いつだって昂輝は平然としていて、もしかしたら僕のことうざったいと思ってるんじゃないかって心配してた。  僕を好きじゃなくても幼馴染だから冷たく出来ないんじゃないかって。  めんどくさいだけなのかもしれないし。  悲観的。  でも昂輝も僕にちゃんと好意を持っていてくれたのだ。 「もらっていいのかな」 「遠慮すんな。こんな俺を好きだって言ってくれるお前へのプレゼントなんだから」  視線を斜に向け言い捨てる。照れているのだ。 「大事にするね」  僕は写真をよくよく眺めた。  スマホで画像交換するよりよっぽど秘密っぽくて重々しいと思う。 「もっと喜べよ」  いらないなら返せと、指が伸びて来た。  僕は急いで写真を胸に押し当てる。 「喜んでるよ。これって、僕に持ってて欲しいから用意したってことだよね」  僕だけにくれるってことだよね。  僕が好きだって伝え続けたから報われたってことだよね。  昂輝も僕を好きなんだよね。 「お前が欲しがるかと思っただけだ。まあ大事にしろよ」  放り投げるような口調で言うのはきっと恥ずかしかったからだと思う。  

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