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二十五

 服が汚れないように俺は裸になった。    飛び散ったり失敗した場合に備えて床にバスタオルを敷いた。  その間、水鷹はあっちを向いたりこっちを向いたりと落ち着かない。    あずき色のゆるいジャージのズボンだけを脱いだ状態で迷っている。    自分で提案しておきながら腰が引けている。  大丈夫なのかとうかがう子供のようで見ようによってはかわいい。  本当に無理で嫌なら水鷹の頼みでも俺がするはずがないことぐらいわかってるはずなのに水鷹は俺に無理をさせていると感じているらしい。    どうするのかと思ったら自分の股間をおさえながらうなる。  無言でいると下着を脱ぎだした。  まさかズボンが脱げても下着は俺の目の前で脱ぎにくかったんだろうか。  変哲のないボクサーパンツは見慣れたものだし、着替えのときに俺の目を気にしたことはない。  足をうまく抜けなかったのかこけかけた水鷹は「あのさ」と切り出した。   「締め付けすぎない下着としてふんどし派になろうと思うんだけど藤高も」 「ただの布のやつは無理」 「紐パンっぽいやつならいいですよね、わかります! おーけー、おーけー、手配しようじゃないですか!!」  以前にオリジナル下着がどうとか言っていた話だろうか。  色気のなさが俺たちらしくていいと思う。下着にこだわりがないので水鷹の「おそろ、おそろ」と喜んでいる姿のほうが重要だ。    水鷹は昔から俺といっしょに何かをするとか、食べるとかそういうことを楽しんでいる。  アイスを食べているのも楽しそうだし、セックスもまたそうだ。  楽しいからこそ積極的に行う。  行動原理がとてもシンプルでわかりやすい。  逆にわかりやすいと思っていた水鷹の考えが見えてこないと俺はどうすればいいのか判断がつかなくなるかもしれない。それが病院から戻ってきたときから一か月間感じ続けた形容しがたい不安感の正体だ。  今までずっと俺が真意を探る必要もなく水鷹は自分の考えを俺に伝えてくれていた。裏なんかあったところで水鷹の考えなら大したことがないと感じている。そこに俺は安心を覚えているのかもしれない。  俺は瑠璃川水鷹に夢を見ない。    水鷹が最低最悪で気持ちの良さを重視する利己的で自分本位な男だと知っている。その上で俺を傷つける可能性がないとを心のどこかで確信している。たとえ傷つけられたとしても、振り回されたとしても想定内におさまっている。  やっぱり瑠璃川水鷹は最低だという感想を抱くだけで本当の意味で俺が傷つくことはない。  不能は想像していなかったけれど止められる可能性がある中で俺の怠惰が原因で引き起こされたことだという自覚はあるので今はもうそこまで気にならない。一瞬でも勃起できたことが大きいかもしれない。    水鷹と触りあって勃起したら気まずいことになる、ホモだと思われると心の中で俺は自分の下半身が復活しないことを願っていた。今は気にならない。水鷹が俺の手足で勃っているんだから俺が水鷹に対して勃起しても変じゃない。  だから、勃起したら勃起したで笑い話だ。  治った、よかったで終わり。  水鷹はきっと「それはそれとしてオレは気持ちよくなりたいから藤高、オナホになって?」と頼んでくるんだろう。  最低で自己中心的で水鷹らしい。    下着をお揃いにすることで喜ぶ水鷹のメンタルはやっぱり俺のことを親友としか思っていないんだろう。  悲しくても安心するところでもある。    指輪は深い意味もなく単純にお揃いのものが欲しい気持ちから俺にくれたのかもしれない。  揃いの下着をつけたいと思うような感覚で俺に指輪を渡してきた。  もともと俺は茶番だとわかっていた。  それでも、もしかしてという期待を抱いて心を窮屈な場所に押し込めていた。  結果、水鷹はすべてを白紙に戻すことを選んだ。  指輪で縛られるなんて俺たちにあった関係とは言い難かったからだ。    周囲の目を考えて結婚という単語を使っただけで水鷹からするとお揃いのアクセサリーをつける儀式のための前振りだったのかもしれない。それなら俺が勝手に空回っていただけだ。  水鷹はいつだって底知れない欲望と無神経さを持っている。振り回されることも引っ張られることも馴染んでいたはずなのに結婚という言葉が俺の調子を崩していた。水鷹の言動に怖がって怯えるなんてらしくない。    股間が立ち上がることによって俺の気持ちも上向いている。  水鷹のことは振り回すぐらいがちょうどいい。   「すっぽんドリンク何本か飲んだら心臓がばっくんばっくんに!」 「用法容量お守りください」 「ホント、それ大切ですわ」  落ち着きなくその場で足踏みをしだす水鷹。  精力剤を複数飲むことで変な効果が働いているのかもしれない。  親衛隊からの貢ぎ物を捨てたら呪われそうなので基本的に水鷹が消費している。  俺が口に入れたり触るものに毒はないが毎日のようにローションとコンドームと精力剤やすっぽん鍋セットなんかが届く。  朝食や夕食のメニューとして届けられる食事の中身も精がつくものが多い。  俺用のものがいっしょに食事をしている水鷹に及ぼす影響は高い。俺がパスタを食べている姿に興奮するらしいのでだいぶ飢えている。 「目が血走っててやべーな」 「一回、トイレ行った方がいいかな。べつのが出てきそう」 「んー、ちょっとこのタオルにしてみろ」    予備の床に敷いていないタオルを水鷹の股間に近づける。   「藤高ってときどきマジでクレイジーだよね」 「わざわざ待っていてやってんだから早くしろよ」 「藤高が藤高さま過ぎてっ」    半泣きで水鷹は下半身に意識を集中するのか目を閉じた。  タオル生地は肌触りのいいガーゼなので敏感な部位でも平気だろうとタオルで竿を包み込んでしごいてやる。  すでに限界が近かったらしい水鷹は身悶えて「あうと? せーふ? わかんない、ちょっとまって、やばいって」と慌てだす。   「口あけて待ってって言ったけど、言ったけどさ。やばっ、ほんと、でちゃう。……さっさとしろよ、ぐずのろまみたいな目で見ないでよ。こうふんするっ」    肩で息をする水鷹に股間のタオルをとる。  男性器の先端はカウパー腺液で濡れ、腰の角度などを考えて発射は秒読みだった。  床に座り、上を向く。目に入ると嫌なので手で顔の上部分を隠す。   「アブノーマル度が上がってんですけどっ。藤高からの愛の深さに窒息死する。しあわせ、すぎ、でしょ」    後半を言いながらイッたらしい。  口の中に生臭い液体がある。  目を開けると蕩けた顔で自分の竿をしごきまくっている水鷹がいる。  荒い息をしながら俺に向けて二発目を打とうとしているのか尿道に残ったものを出し切ろうとしているのかわからないが切羽詰まった水鷹の雰囲気に笑える。   「口の中の精液見せつけるとかなんなの!? 小悪魔なの? エロいんですけど!!」    白い液体にエロスを感じるお年頃な水鷹を見ていると面白くなってきて精液の味も匂いも自分のしている変態プレイも小さなことに思える。気持ちがいいことをしたいと顔にも態度にも出している水鷹はこの程度で終わったりしないだろう。  

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