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第8話

(いつの間に寝てしまったのだろう)  見慣れない天蓋に、アルジェントはハッと目を覚ます。  身体中痛いが、眠る前のような起き上がれないだるさはない。恐らく痛みに緊張していたために筋肉に負荷がかかった故の痛みだろう。 「あ、アルジェント、起きた」 「ローザ?」 「うん。看病、しにきた」 「ヴィオーラとデートでは」  一昨日あたり、デートデートと散々惚気ていたように思うのだが、とアルジェントが問うと、ローザはむぅ、と小さく頬を膨らませた。 「発作」 「ああ…、って、調子悪いのにすみません。私はもう大丈夫です」 「だめ、寝とくの。ローザ、魔王様に魔力もらったから、もう平気。念のためで、デートは明日」 「ああ、それならよかったですが…」  ローザの発作は、何度か見たことがあった。  シュバルツが処置をして本人が大丈夫だと言っているなら、そこに嘘はないだろう。  起きあがろうとした体をもう一度ベッドに沈める。  このベッドが魔王のものであるというところで、気はあまり休まらないが。 「ねえ、アルジェント」 「なんですか?」 「それ、なに?」  ローザは、濡らした手拭いでアルジェントの額を拭きながら尋ねる。 「それ、とはなんのことですか?」 「アルジェントのなかに、へんなものがあるよ」 「変なもの?」 「うん」  ローザは奪取の能力ゆえなのか、他者の魔力の揺らぎに敏感である。  先程魔力が逆流したために、変に見えるのだろうか。そう思って伝えてみるも、どうにも腑に落ちない顔をするローザ。 「なんて、いうの。アルジェントのなかに、アルジェントが縛ってるものがある、かんじ?」 「なんですか、それ」 「わからない」  二人で首を傾げていると、シュバルツが部屋に帰ってきた。  ローザにここにいるように頼んだのはシュバルツなので、ヴィオーラは連れてきていない。 「ありがとうローザ。明日に備えてやすんでおいで」 「はぁい。アルジェント、おだいじに」 「はい、ありがとうございます」  ローザが去った後、アルジェントはゆっくりと体を起こした。  それを咎めることはないが、さりげなく支えられる位置に座ったシュバルツは、アルジェントの中にある呪いを見つけられるか?と思って魔力を読んだ。  一箇所、確かに何かがくすぶっているような、そんな雰囲気はするが、それはアルジェント自身の魔力のようで、先程の逆流を直した後遺症かもしれない。 「魔王様、重ね重ね、申し訳ありませんでした。筋肉の痛みはありますが、もうそれ以外の不調はございません」 「そう、それならよかった。僕の愛し子。死ななくて本当によかった」  シュバルツの言葉にアルジェントは困ったように眉を下げる。  向けられた好意を、受け止められない自分が、やはり申し訳ない。  けれど警告は、今もなり続ける。  ー結ばれてはいけない。  ー結ばれたら。  ーお前は王を、喰い殺すだろう。 「!?」  びくり、と突然体が震えたアルジェントをシュバルツは反射的に抱きしめた。 「大丈夫!?」 「え、あ、は…い。すみません。魔王様、その…、自室に戻ってよろしいでしょうか」 「心配だからだめ、と言いたいところなんだけど」 「お願いいたします」  強い、拒否。  シュバルツは、渋々その申し出を受け入れた。

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