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第9話

「ねえ、ヴィオーラ」 「うん?」 「どうして、アルジェントは、好きって言えない、かな?」  翌日、デートという名の城下散歩をしていたローザは、常日頃から思っている疑問を口にした。 「アルジェントは、好きだよ。魔王様のこと」 「それは、恋愛的に?」 「恋愛的に。ローザ、わかるの」  恋するおとめの直感というやつだろうか、とヴィオーラは続きを待つ。 「何かが、アルジェント、縛ってる。でも、ローザにはそれは、わからない」 「……、アルジェントには呪いがかかっているのではないか、というのが私たちの見解だよ、ローザ」  ヴィオーラは昨日シュバルツとの会話をローザに説明する。  それを聞きながら、ローザははっとしたように顔をあげた。 「それ、銀狼、ちがう」 「え?」 「呪い、かけたの、アルジェントだよ。アルジェントが、自分、呪ったの」  ローザの言葉にヴィオーラもハッとする。  大量に仲間を殺したという後悔。その後に訪れた幸運。  恐らくだが、名をもらった時に、アルジェントの心は魔王のものになったのだろう。  だが、心のギャップに生まれた強い感情が、アルジェントを縛った。  愛し愛された仲間を殺した自分は、もう誰かを愛する資格はない。  愛される資格もない。  表層には出てこない、本人だって自覚のないその感情は、それでも彼をしっかりと縛り付ける。   もし、“想い”が通じ合ったそのときは。 「でも、どうして」 「アルジェントが、1番辛いの、なに?」 「そりゃあ、我が君を悲しませたり、我が君になにかあること、じゃないかな」 「だから、だよ」 「ごめんローザ、私にはよくわからないんだけど?」 「アルジェントは、アルジェントが、1番辛い想い、する呪いをかけた。魔王様、悲しむ、傷つく。それ、自分が死ぬより、ずっと辛いの。なんで、そんな、呪いなのか、は、たぶん、銀狼たちの無念も、一緒に、“喰べた”から。魔力は、思念、乗ること、あるよね」  長文を喋ることが苦手なローザ。それでも必死に伝えた言葉は、二人にとって、ひどく重いものだった。  このままでは、アルジェントはシュバルツに何か危害を加え、その結果二人にとって最悪の結果を産むことになるかもしれない。  アルジェントのスキルは、共喰い。  シュバルツの魔力をすれば、食い尽くされることはないだろうが、シュバルツの膨大な魔力を喰ったアルジェントの魔力が暴走するのは想像にかたくない。  魔王から名前をもらった三つ星の中で、最も戦闘能力、魔力ともに高いのがアルジェントである。暴走したアルジェントを止められるのは、魔王しかいない。  アルジェント、つまり愛している相手を自分の手で殺させる。  なんと残酷な呪いだろうか。  ローザはアルジェント本人が自分に呪いをかけたと言ったが、実行したのは確かにアルジェント。  しかしそれを実行させたのは、きっと銀狼たちの無念だろう。 「昨日の、きっと、アルジェントが、自覚、しかけてる、から」  魔力は、呪いは、感情に大きく動かされる。  愛されることへの受容に心が動いたら、呪いが発動する。  発動しないためには、先に自分が死ぬしかない。  無意識からの、自己犠牲。  「呪いって、解くことができるのだったかな」 「わからない。ローザ、呪い、詳しくない」 「そうだね、ごめんよ。ここからは私の管轄だ」  情報を集める。それはヴィオーラが最も得意なこと。 「ひとまず、この話は我が君にしないといけないね」 「すぐ、行く」 「ああ、そうしよう」  普段ならシュバルツの近くにはアルジェントが控えているのだが、今日はアルジェントはまだ本調子じゃないらしく、自室にいるという。  シュバルツの近くには数匹の魔物がいたが、ローザとヴィオーラがきたことで、何も言わずに下がった。  三つ星は、それだけの存在である。 「どうしたの、ローザ、ヴィオーラ。君たち今日待ちに待ったデートでしょ?」  相変わらず、だらっと玉座に座っていたシュバルツは、どっこいしょ、という掛け声とともに座り直した。 「我が君、実はね、昨日の話で」  ヴィオーラが先程ローザとした話を、かいつまんでシュバルツに告げる。  話を聞いているうちにシュバルツの眉間のしわはどんどん深くなった。 「あのワンコは本当に…」 「魔王様、アルジェント、狼」 「いや、…うんそうだね、ローザ」  ローザが必ずするツッコミに、少しシュバルツの肩の力が抜ける。 「とにかく、私は呪いをとくという方法があるのか、調べてみることにするよ。それでいいかな、我が君」 「うん、よろしくねヴィオーラ。ローザは、アルジェントのそばにいてくれるかな」 「ん。…魔王様は?」 「ここにいるよ」  シュバルツは困ったように笑った。 「アルジェントに、あまり接触しないようにしないとね」

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