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第11話
ヴィオーラを呼んでほしいという頼みに、ローザはすぐに頷いたが、同時に今彼が調べ物をしていることを思い出す。
少し考えてから、「アルジェント、魔力落ち着いたら、呼ぶ」と伝えた。
アルジェントはその言葉に頷いて、「少し、眠ります」と目を閉じる。
彼の額に浮かんでいる汗をそっと拭いながら、ローザはその寝顔をみて、また少しだけ、泣いた。
ローザがヴィオーラを呼ぶ。
それは文字通り、「ヴィオーラ、きて」と部屋から窓の外に向けて呼ぶことで、呼び声を受けてヴィオーラはすぐに「参上したよ、私の愛しの君」とやってきた。
これは、二人が使う特殊な通信魔法のひとつなのだと、ローザが言っていたことがある。
何度か見たことがあったので、それには特に驚かず、アルジェントは「呼ぶよう頼んだのは私です」と言った。
アルジェントをみると、ヴィオーラはいつものように大袈裟な身振りで礼をする。
「やあやあ、我が友アルジェント。調子はどうだい?」
「あまり、良いとは言えませんね」
苦笑しながらそう返してきたアルジェントに、ヴィオーラはおや?と首を傾げた。
不調は基本隠そうとするのが今までの彼だ。
「珍しいね。君がそういう素直さを見せるのは」
「先ほど、ローザに馬鹿だと叱られてしまいまして」
「まさか、泣かせたんじゃないだろうね」
ぎくり、と震えた肩にヴィオーラはむぅ、と眉を寄せたものの、まあ、今は本調子じゃないしね、とため息ひとつで流すことにした。
「で、私を呼んだのはどうしてだい?」
「私の身に起きていることで、ヴィオーラが気付いていることを教えて欲しくて」
「ふむ」
ローザがくいくい、とヴィオーラの裾を引く。
「ヴィオーラ呼ぶ前、ちょっと、アルジェントと、話した。アルジェント、気づいてる、呪い」
「え?」
「自分に、何か魔法、かかってる。それ、自分でかけた、そこまで、気づいてる」
ローザの言葉に驚きつつ、ヴィオーラは、そうか、と納得もしていた。
アルジェントは馬鹿じゃない。
「じゃあ、呪いについてわかったことをいくつか伝えようか。まず、呪い自体を解除する方法はあるみたいだね。一つは人間の教会にいる“解呪師”に依頼すること。詳しいやり方はわからないけれど、どうやら聖なる魔力とかいうもので呪いを打ち消すらしい。…この聖なる魔力って言い方、私はどうにも綺麗な泥水みたいな感じがして気持ち悪いのだけれど、どう思う?」
「そこについて異論はありませんね。で、もうひとつの方法は」
「かけた本人が解く、以上だね」
「そんな、ざっくり、なんだ」
ローザの言葉に、苦笑を返してヴィオーラは言った。
「ああ。ざっくりなんだよ、愛しの君。具体的にどうするのか、という情報は一切ない。まあ、もともとスキルや魔力は感覚に依存するものだから仕方ないとも言えるのだけれど」
「とりあえず、私が私自身で解くことが可能ということが分かっただけでも、一歩前進ですね」
アルジェントがそうまとめた時、突然ローザが「きゃぁあああああ」と悲鳴を上げた。
「「ローザ!?」」
慌ててローザの方を見ると、両腕でからだを抱きしめてうずくまっている。
「いやっ、それ、いやっ熱い、いやあああああっ」
次の瞬間、ローザの姿が消える。
詳しい状況はわからなくても、彼女の本体に何かあり、本体の方に人型が引っ張られたというのはすぐにわかった。
咄嗟に彼女の元へ行こうとするヴィオーラをアルジェントが止める。
「なぜ止めるんだアルジェント!」
「私が行きます!状況は分かりませんが、おそらく今のローザにあなたが近づくのは危険です!」
「君も不調だろう!?」
「ヴィオーラは魔王様のところへ!!ローザに、私と同じ思いをさせる気ですか!!」
弱ったローザは、翼のある魔物であるヴィオーラの魔力を、喰い尽くすかもしれない。
ヴィオーラは血が出るほど唇を噛んで、「すぐに呼んでくるから」と玉座へと飛んだ。
それと同時にアルジェントは、窓に足をかける。
飛び降りるのが1番早いからだ。
「ローザ、無事でいてください…っ」
呟くと同時に、アルジェントは体を宙に投げ出した。
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