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第13話

※残酷な表現を含みます、ご注意ください。この回を読み飛ばしていただいて次の回からでも話はわかるかと思います。  そこから先は、戦闘ですらなかった。  1番最初に動けるようになった勇者が斬りかかるも、シュバルツは刃を軽く手で受けて、そのまま勇者の鎧を蹴り壊した。  がはっと血を吐き出して勇者が吹き飛ぶ。  それを聖女が癒している間に、戦士も斧を振りかぶってやってくるが、シュバルツはどこから出したのか大剣を軽く振って、戦士の防具も切り壊した。体に届いた刃で戦士の体から血を吹き上がるが、即死ではない。  恐らく人の身で扱うには難しい大魔法を唱えた魔法使いの魔法も片手で握り潰し、次の瞬間魔法使いの首を持って体を持ち上げる。  それを助けようと再び勇者が斬りかかるが、その勇者に向けて、魔法使いを放り投げてふきとばす。  いずれも本調子出なかった上に奇襲をかけられたとはいえ、三つ星に傷を負わせた勇者達は恐らく弱くはない。  それでも、魔王シュバルツの力は圧倒的で、そして、あえてすぐに殺すようなことはしないように手加減すらしているのが、アルジェントにはわかった。 「ふふ、我が君が怒っているのは、初めて見たね」 「! ヴィオーラ」 「ヴィオーラぁ…」  意識が戻ったらしいヴィオーラは、泣きながら抱きついてくるローザを撫でて、苦笑した。 「大丈夫ですか」 「ああ。我が君が癒してくれたから全快だよ、服はボロボロだけれどね。いつでも戦える…、まあ、その必要はなさそうだけれど」 「ええ、私も手を出すなと言われました」 「はは。我が君、今までで1番、魔王っぽいじゃないか」  勇者達をまるでおもちゃの人形を転がすように相手している魔王を見て、いつものように格好いい、と感じる気持ちもあるのだが、そうではない、不思議な感覚が生まれる。  あのかたに忠誠を誓えて、自分は本当に幸せであると。  脳内に、仲間の最期がチラつき、また魔力が揺らぎ痛みが這い上がってきたが、それをシュバルツに教えられた方法で無理矢理抑えつける。ローザが来るまで何度も一人で繰り返したため、笑える話だがだいぶ慣れてきている。 「アルジェント」  揺らぎに気づいたらしいローザに「魔王様のお邪魔はしませんよ。こんな特等席で、あの方のご活躍を拝見できているのに」と微笑んで、視線をシュバルツに戻す。 (この呪い、絶対に解呪しなければ)  この先も、魔王様のお隣に立つために。  勇者は、這い上がってくる死への恐怖を必死に押さえつけていた。  敵わない。それは純然たる事実として今目の前に突きつけられている。  恐らく一瞬で全滅もあり得る力量差なのに、それをしないのはなぜだろうか。  しかし、好機でもあると思う。どうにか逃げ延びなくては。自分は勇者なのだ。自分が倒れては、人間の負けが確定する。勇者はそう思っていた。  負けが決まると言うことは、王城で待つあの人も、死んでしまうと言うことだ。 「逃げようと思っても、無駄だよ。君、なかなか心折れないみたいだし、そろそろちゃんと殺してあげるから安心して?」 「っ」  シュバルツは口元だけで微笑む。 「僕は基本面倒くさいのは嫌いでね。人間が魔物に対して反抗心を強くするんじゃないかなって思って君たち勇者を殺さないようにしてたんだけどさぁ」  シュバルツが右手を上げる。  瞬間、聖女の足元に大きな魔法陣が浮かび、火柱が上がった。  悲鳴を上げる暇もなく、聖女の体が燃え尽きる。  ほとんど誰かわからなくなったそれに、魔法使いが悲鳴を上げた。 「貴様…っ」 「君たちは、僕の逆鱗に触れたんだよ。見逃してあげる気はない」  左手を上げると、次の魔法陣は戦士の足元だった。  大きな音ともに落雷が戦士の体を貫く。  倒れた彼が絶命しているのは、すぐに分かった。 「たしか、君。僕に言ったよね。お前のせいでどれだけの人が死んだと思ってる、だっけ。それ、僕からも言えるの知ってた?お前ら人間のせいで、どれだけの魔物が死んだと思ってんの?お前らさ、経験値稼ぐためだって、ほとんど無害なスライムを虐殺するじゃない。角が役に立つっていってホーンラビット狩るじゃない。毛皮が高く売れるって、銀狼の子どもを捕まえて懐かせてから殺すじゃない。それでもね、僕らはもともと、君たちよりもっと死に近いところで生きているから、“そういうもの”として、見逃してきたんだよ。でも」  シュバルツは魔力で作った刃を、魔法使いに向けて投げる。  小さなそれは体に突き刺さる瞬間にふくらみ、彼女の体を真っ二つに切り裂いた。 「僕の大事な三つ星を、あんなになるまで傷つけた。これはもう、見逃せる範囲を越えてるよね。ああ、大丈夫、安心して。僕はとっても優しいからさ。別に人間みんな滅ぼそうとは思わないよ。そうだな、君たちと、君たちを僕の元に送ってきた教会と、王国くらいかな。ああそうだ。君、皇女と恋仲でしょ。皇女もすぐに、ちゃんと一緒に送ってあげる。なんて慈悲深いんだろうね、僕」  皇女のことを告げられた瞬間、勇者は声にならない叫び声をあげて、魔王に斬りかかった。 「愛しい人を傷つけられる、殺される苦しさはね。魔物も人も変わらないんだよ」  静かにそれだけ言うと、シュバルツは勇者の心臓をもぎ取り、そして、潰した。

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