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第14話
勇者たちの亡骸をまとめてに王城へと飛ばして、一つ息を吐いてから、シュバルツはくるっと方向を変えてローザたちが待っている場所へと急いだ。
「お疲れ様でございました、魔王様」
近づいてきたシュバルツにそうアルジェントが言って、後の二人も同時に頭を下げる。
けれど、そのねぎらいは受け取らず、シュバルツは3人にもうちょっと近づくように手で合図した。そして、首を傾げつつも従った3人をいっぺんに抱きしめる。
「ま、まま魔王様!?」
「我が君!?」
「魔王様?」
予想外のシュバルツの行動に、三つ星は三者三様の反応を返すが、シュバルツは壊さないように加減はしながら、それでもできるだけ強く3人を抱きしめた。
運が良かった、と思う。
ローザやアルジェントが弱っていたことは置いておいて、奇襲を受けたときに3人が固まっていたこと、シュバルツがすぐに動ける玉座に座っていたこと、ヴィオーラとローザが特殊な通信魔法を使えたこと、この全てが揃っていなければ、間違いなく三つ星は欠けていた。
らしくなく、震える。
「魔王様、ないてる?」
ローザの言葉に「うん、だって怖かったからね」と素直に返すと、ローザがぽんぽんとシュバルツの背中を叩いた。ヴィオーラもそれに倣い、戸惑った末にアルジェントも倣う。
その温もりにゆっくりと息をはいて、シュバルツはやっと3人を離す。そして、濡れた頬を乱暴に拭った後、ごめんね、と謝った。
「君たちをあんな目に合わせて」
「何をおっしゃいますか!我々こそ、至らぬばかりに魔王様に心労をおかけてしてしまったこと、なんとお詫び申し上げていいかわかりません!」
慌てて言い返すアルジェントにふっと笑う。
しかし、このたびのことは確かにシュバルツのミスであったと、シュバルツは思っている。
「ううん。僕ね、一応気づいていたんだ。庭の近くに何か別の魔力があることに。それは、勇者達が去ってからもずっとそこにあったんだけど、長く何も起こらなかったから油断してた。あれ、マーキングだったんだよ。魔王城がここだよっていう、転移のための」
「ローザ、それ、しらない」
「うん、上手に隠してあったから。でも、僕は気づいていた。気づいていたのに何もしなかったんだ」
それは、完全な油断だった。
勇者達がどうやって三つ星の情報を手に入れたのかはわからないが、今回彼らはローザを狙っていた。魔王を直接ではなく、恐らくあの転移のマーキングを使って、その配下である三つ星から、順番に強者を倒していくという算段だったのだろう。
直接的な戦闘能力の高いヴィオーラやアルジェントと違い、ローザは対策さえしっかり講じれば、あの程度の実力でも十分倒すことは可能だ。事実、アルジェントとヴィオーラが間に合わなければ、ローザは間違いなく殺されていただろう。(それでもアルジェントが本調子ならシュバルツの手を煩わすこともなかっただろうが)
「彼らを甘く見てた。僕ですら防げない君たちのスキルを無効化する手段を用意するとも思ってなかった。だから、これは僕の失態。認めてくれるかな」
かな、なんて言い方をしながら、有無を言わさぬその声に、三つ星は目を見合わせた後、ひとつ頷いた。
それを見て、満足したように微笑んでから、シュバルツはいつものように軽くいう。
「で、王都と教会をぶっ潰そうと思うんだけど、みんなはどうする?」
「まってる」はローザ。
「ローザのそばに」はヴィオーラ。
「お供いたします」はアルジェント。
「うーん、でもさ。アルジェントは、本当に僕と一緒に来て大丈夫?」
間髪入れずに「はい」と返そうとしたアルジェントを遮ってヴィオーラがいった。
「そうだ。我が君。アルジェントの不調について、もしかしたら教会にヒントがあるかもしれないよ。実力の高そうなの、一人二人捕えるのもいいんじゃないかな?」
現時点で、呪いを解くことができるのは「解呪師」という職種のものだけ。
その情報はまだ知らなかったシュバルツだが、ヴィオーラのこの言葉と、それを聞いて少し目を丸くしたアルジェントの様子を見て「後で詳細は教えてね」とヴィオーラに伝え、アルジェントに微笑む。
「じゃあ、アルジェント。僕の側から離れないでくれる?」
愛しい人、と心の中だけでシュバルツは付け足した。
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