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第15話

どうしてこうなった、がアルジェントの素直な心境だった。  勇者の襲撃があってから、1週間後。  理由はわからないが、あれから魔力逆流の発作がぱたりとなくなったアルジェントの体が本調子に戻ったタイミングで、王国への襲撃が決行された。  滅ぼす前日に、ヴィオーラが作った白々しい「終わりの宣言書」を送りつけ、そして、大きな魔法陣を敷く。  この報復「側にいてもいいけど手は出すな」という命令が下されたので、その魔法陣が影響を及ばさないあたりで待っていようと思っていたのに、僕から離れないでって言ったでしょうの一言で、シュバルツはアルジェントを横抱きにして空中待機をしている。  アルジェントは空を飛ぶ魔法を持たないので、確かに空中待機をするなら魔王かヴィオーラに支えてもらう必要はあるのだが、なぜこんなふうに抱き上げられたまま、王国の終焉を見ないといけないのだろう。  単純に、恥ずかしいのと、意味がわからない。  ただ、あの一件からシュバルツが三つ星を安全な場所に置いておこうとする傾向が強くなったのは感じていたので、とりあえず大人しく抱っこされているわけなのだが。 「さて、そろそろ宣言書に書いた時間かなぁ」  くああ、とおおあくびをしたあと、すっと冷たい目になって、魔王は小さく口の中で魔法陣に実行を命令した。  国全体を覆っていた魔法陣は、音もなく、全てを大地の中に沈めていく。  アルジェントは耳がいいため人間達の悲鳴が断片的に聞こえてはいるが、特に何も思うことはない。  強いて言うなら、このような大魔法を、呼吸するのと変わらないように使用できる我が王への尊敬か。 「魔王様、格好いいです…っ」 「えー、いまこの状況でソレ言われても、どう反応していいかわかんないんだけどー」  シュバルツは沈んでいく国を見ながら笑った。  次に向かったのは、王国から北上した極寒の地。人間達が「北の大地」と呼んでいる場所だ。そこにある教会が、おそらく勇者達にあの聖なる武器防具を授けたのだろう。  教会の近くに降り立って、シュバルツはアルジェントをおろす。 「おお、すごい。ここ、信仰が強いからかな。聖の力も強いね。アルジェント、平気?」 「はい。魔王様のお側だからでしょうか。特に問題ありません」  シュバルツの言うとおり、教会周辺は、天然の結界と言っていいほどの“聖”の力に満ちていた。  確かにこれだけの場所なら、聖なる武器やら防具やら、ザックザックと生まれてもおかしくないだろう、とシュバルツは思う。 (なおさら、ぶっ潰しとかないと思うけど)  このような場所、数百年に一度できるかどうかだろう。  ここさえ潰せば、しばらくは魔王城周辺も穏やかなのではないかと思う。 (でもその前に、解呪師で実力ありそうなのを見繕っとかないと)  あの一件があった後、アルジェントが自身を呪っていると自覚した、と告げられた。  自覚したから発作を起こさなくなったのかな、というのはシュバルツが勝手に思っていることだが、何にせよ爆弾を体の中に抱えていることに間違いはない。  解呪できなければ、アルジェントが傷つく。  愛しい子の苦しむ姿なんて見たくないし、万が一でも自分で殺すなんてとんでもない。 (それに、解呪さえできれば、もしかしたら)  ずっと、思っていたことがある。  シュバルツは無理矢理は嫌いだ。これでもかと言うくらい甘やかしたいのが基本。  だから、アルジェントが拒否する限り、望むまいと思っていたが。 (もしかしたら、抱けるかもしれない)  シュバルツは男で、そして、ちゃんと性欲だってある。  そして、誰でもいいわけじゃない。  抱いてドロドロにしたいのは、一人だけだ。 「魔王様?どうなさいましたか」  そんなことを考えていたら、その愛しい子に顔を覗き込まれて、ヒュンと肝が冷えた。  今自分のことを意識されるのは、呪いが発動するかもしれない危険がある。 「いいや、なんでもないよ。さて、解呪師、どこにいるのかなぁ?」  信仰の強いはずのこの場所は、しかし人の気配がほとんどなかった。  うーん?と首を傾げた時、後ろから声をかけられる。 「おっきゃくさーん!解呪師さがしてるのー?なら俺、俺がおすすめよ~?」

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