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第16話
「あなたは?」
アルジェントが眉を寄せて、シュバルツの前に立つ。
目の前の男は、茶髪で、目の色が赤い。
人間で赤い目など、滅多にいないため、少し気になった。
「俺はねー、ここに住んでるカズマって言いまーす!お兄さん達、解呪師探してるなら、俺おすすめだよ。っつっても、今俺以外ここ人いないから選択肢、俺のみ!なんだけどね」
「どういうこと?」
シュバルツが首を傾げると、カズマはニコニコと笑顔を崩さず答えた。
「1週間くらい前かなぁ、勇者一行の死体が城に送られてきたらしくってさぁ。もう、てんやわんやだったんだよ。とりあえずここの主だった神職者はみんな王都に行っちゃったし、信者やら他の神職者はみーんな逃げちゃった。信仰心ドコーって感じ。てか、相手が魔王っていうならどこに逃げても無駄だと思うんだけどさあ」
あっはっは、とあっけらかんと笑うカズマに、シュバルツは少し面白くなった。
「どうして君は逃げなかったのかな?」
「えー?さっきも言ったけど、もし相手が魔王ならどこ逃げても一緒でしょ。世界滅ぶってんなら、ギリギリまでいつもと同じ生活したいじゃない」
カズマがそう答え、なるほどねぇ、とシュバルツが答えた。
アルジェントは、自分でも気づかない程度にむっとする。
シュバルツは基本的に人間に一切興味がない。
にもかかわらず、この男との会話は楽しんでいるようで、この男の何が特別なのか、と思った。
「で、解呪が必要なのは、そのお兄さん?」
カズマがアルジェントを見る。
「わかるの?」
「うん、俺の目はちょっと特殊でさ。…っていうか、お兄さんたち魔物じゃん。今気づいた」
「……、魔物と気づいたのに逃げないんですか?」
「えー、だって聖なる力が強いはずのここに平気で立っていられるレベルの魔物でしょ?無理無理。逃げ切れっこないって」
「怖くないの?」
「穏やかな会話が成立している間は別に。魔物に知性があるのは知ってるし」
カズマはとりあえず、とアルジェントを見つめる。
赤い瞳が、ちらっと光ったように見えた。
「こりゃまた、根深いの持ってるね、お兄さん」
カズマの眉間にしわが寄る。
「呪いが見えるんですか」
「見えるよ。俺、“神眼”持ちだもん」
なんてことないようにカズマは言ったが、“神眼”は人間が持てるスキルの中でもかなり特殊で稀少なものだ。魔力や聖なる力の流れを読んだり、彼のように呪いが見えたり、人の感情が見えたり、そういった特殊な目で、多くの場合は教会に囲われるか迫害される。
この教会にいたと言うことは、囲われた方なのかもしれない。
「うーん、かけたのはお兄さん本人だね。解き方わかる?」
「……いえ」
「そっかー。まだ呪いの活性化はしてないみたいだけど、……うーん」
カズマは腕を組んで唸る。
「カズマだっけ?君はこれ解ける?」
「無理だね」
シュバルツの問いに、間髪入れずにカズマは返す。
「俺の解呪方法は、聖なる力で無理矢理呪いを壊すことなんだけど、このお兄さんの場合、呪いが根深すぎて壊そうとすると心に負荷がかかりすぎるよ。ていうか、そもそもお兄さん魔物じゃん?俺、聖なる力は強い方だからさ、それを体に入れるってのも、どうなるのかわかんないからオススメできない」
そうですか、とアルジェントは少しがっかりした。
人間に解いてもらう気などなかったが、それでも「できない」という言葉はなかなか刺さった。
「君、魔物相手にえらく正直なんだねぇ」
「嘘はつかないってのが俺の信条なんよ。…ていうか、のんびり喋ってたけど、お兄さん達どういう魔物?このタイミングでこの教会に現れるっていうと、魔王の手下とか?」
「いいや、そのものズバリ魔王だよ」
「…へ?」
「だから、僕が魔王」
「…、……へ?!」
流石に驚いたらしいカズマの反応に、シュバルツは笑って、アルジェントは苦笑した。
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