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第21話
ローザが核のもとへ戻ってから、アルジェントは自室の窓際で月を眺めていた。
勇者一行を殺したときのような、分厚い雲はなく、穏やかな空。
月明かりに照らされた雲がゆっくり流れていくのを見ていると、扉のノック音が部屋に響いた。
「はい」
「僕だよー、アルジェント。入って良いかなぁ?」
シュバルツの声にぎくっと体が強張ったが、「だいじょうぶです」と返した。
そもそも、自分は配下なのだから、このような遠慮はいらないはずなのだが、それでも「入っていいか」と確認するシュバルツの優しさが、好きだな、とおもう。
好きだ、と思うとついつい頬に熱が灯るのは、どうしようもなかった。
「ありがと、調子はどう?」
「ありがとうございます。問題ありません」
自分の声はうわずっていないだろうか、変な顔はしていないだろうか。
今まで気にしたことのない思考に引っ張られて、アルジェントは今自分がどんな表情を浮かべているのかもわからない。
そんなアルジェントの心中を知ってかしらずか、シュバルツは、アルジェントの寝具に腰掛けた。こいこいと手招きされては、そちらに行かないという選択はできない。
おずおずと隣に腰掛けると、ぎゅう、と抱きしめられた。
「ねえ、アルジェント」
「は、はい」
「好きだよ」
ストレートな愛の言葉にアルジェントが返せたのは、涙だった。
シュバルツはその涙を指で拭って、ぺろり、と舐める。
呪いは解けても、これから先、彼は何度も立ち止まるのだろう。
想いが膨らめば膨らむほど、彼の後悔は彼の心を刺すのだろう。
だけれど、それを思ってもこの気持ちは、どうに求められなかった。
「好きだよ。アルジェント」
そういって唇を重ねるが、拒否はされない。
彼を動揺させるためのあんな強引なものではなく、やさしく、優しく何度も口付ける。
やがて、「はぁ」と開いたそこに舌を入れる。
驚いたようにびくりと体が揺れたが、それでも、嫌がる様子はなく、むしろおずおずとアルジェントも舌を動かしてきた。
(可愛い)
「ん、ぅ」
舌と舌が絡むたび、ぴくんとはねる肩に、ああ感じてるんだなと思う。
「っ、ぁ」
ゆっくりと唇と話すと、名残惜しそうな声が追いかけてきて、たまらなかった。
本当は、もっとゆっくり距離を詰める予定だった。
自覚したばかりの彼を追い詰めるつもりもなかった。
しかし、言わずにはいられなかった。
「アルジェント、僕は君を、抱きたい」
大きく開かれた目に、言わなければよかった、とシュバルツは思う。
当たり前だ。彼が自分を想ってくれている。それについては自信があった。
(…無理矢理は、ダメ、ゼッタイ)
しかし、シュバルツが「ごめん」と言おうとしたのを、アルジェントは自らの口付けで止めた。
そして、上の服を脱いで見せる。
「私は、私のこの身は、……魔王様のものに、なっても良いでしょうか…」
色の白い、引き締まった体は、窓からの月明かりに照らされて、初めて会ったときの彼を思い出す。
彼の問いは、シュバルツにとって理性を飛ばすには十分すぎる媚薬だった。
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