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第3話
ここ数週間、恋さんがこの店に訪れていない。それとなく店長や他のスタッフにも聞いてみたところ、皆んな首を横に振っていた。
「テスト期間……、入試とか?」
恋さんと出会ってもう数年が経つ。可能性は十分に有り得た。
考え方を変えてみたら気分はすっきり……かと思いきや、そうもいかない。ため息が出る。
なんだろ。不安……とは違うな。
モールの扉が開き、からっ風が吹く。寒さに身を縮こませ、腕を摩っていたら誰かを見つけた。
ここ近辺の制服は中学も高校も紺色である。リボンやネクタイも縞模様か赤や青が多い。
バレンタインのイメージカラーは暖色を想像するだろう。
赤茶色のブレザーと黒のネクタイ。バレンタインの世界に同化してしまいそうな青年がいる。
「あっ……恋さ」
言い掛けて終わった理由は、彼の隣に大人っぽい綺麗な女性がいたから。
──ズキン。
鋭利な刃物で背中から心臓を突き刺されたような痛み。吸って吐く呼吸すらままならず、危うく崩れ落ちるところだった。
恋さんと女性は『バレンタインフェア中』の旗が靡くお洒落なイタリアンへ。
彼を初めてモール内の、店外で見た。どれくらい目線を離せずにいたのだろう。
イタリアンを出た次はバレンタインの催事が行われている会場へと向かって行く。遠目だが笑い合っているのが見えた。キャッキャウフフ。効果音で表すなら絶対これだ。
一部始終を見て、はっきりさせられたことがある。
恋さんと僕は単なる客と店員の立場なんだって。
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