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第4話
来ないで欲しい。クレームをつけるお客様にさえ思わなかったことを彼に抱き、頭を悩ませる。
それにまた恋さんのことを考えてた。
「お久しぶりだね! また上の空?」
数週間振りに会えた彼を見るなり、喉の奥が締まって挨拶もできない。店員失格だ。
「そんなところもカワイイけど」
妖艶な笑みを浮かべる彼にドキッとさせられる。ストロベリーチョコより甘酸っぱくて、ビターチョコより苦くて。
なるべく視界に入れようとせず、レジ打ちに集中する。今年も大量の百円チョコだ。
彼女さんからは手作りか、高級なチョコを貰うのだろうか。
視線を転じると、彼がいつもと違う様子に気付く。
右手の小指で輝いていた指輪が消え、左手薬指に輪っかが。
商品が揺れてるのは、モールの出入口が開いたり閉じたりして寒さでかじかむから。視界が滲むのもそのせいだ。乾いた目には刺激が強かったのだ。
ピッ、ピッ。
「あ、初さん。そのハートチョコは一つで……」
「おめでとうございます……」
僕は常連のお客様に感謝の祝いを述べた。
「えっ?」
あの日を思い出す。彼は『大切なものを失った』と綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして話してくれた。サービスカウンターに届けられるようなものじゃないことも。深掘りせずとも、大事な気持ちは痛いほど伝わってきた。
その後も、のっぽだけが取り柄の店員に毎回話し掛けちゃうような気さくなお客様。なんだかんだ関係が続いていた。
「おめでと……うって、何が?」
ああ、そこまで言わされるのか。
「だからっ!」
喉から震える声に恋さんが自分にとって大切な存在なんだと気付いてしまう。そして、吹き続ける風の名前に嫌でも辿り着いた。
僕は彼を失うと思って寂しいのか……?
何度も確認した。彼はお客様、僕は店員だと。寂しいの感情を持つのはおかしい。ほんとおかしい。人はものじゃないのに。
「……ちょっと来て」
手を引かれても拒めなかった。
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