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第18話
「愚息がいつもお世話になっております」
忍の父親が頭を下げる中、ガラガラと食事を運ぶ荷車を押して彗は忍が座るソファの前のテーブルまで近付いた。
荷車には誰がそんなに食べるのか分からないぐらいの大量のお粥と雑炊があって、忍の父親はそれを見て驚く。
「こ、これは……?」
「忍、どれなら食べれる?これが鯛粥で、こっちが梅粥、鮭粥と卵粥もあるよ?雑炊ならカニ雑炊、ウニ雑炊、鶏雑炊、牡蠣雑炊、海老雑炊があるけど」
「………」
にこやかな笑顔で聞きながら男は嬉しそうにお粥と雑炊をテーブルへ並べていった。
しかし、忍はどれも食べたくなくて黙り込む。
「忍!早く選びなさい」
急かすように忍へ命じる父親に忍は小さく答えた。
「……なんでもいい」
「お、お前って奴はっ!彗様、本当にすみません!」
父親は忍を怒鳴りつけると、彗に何度も頭を下げて謝った。
「いいから、いいから!忍、お粥や雑炊は嫌?」
「………」
「フルーツとかにする?」
何処までも優しい彗に忍はどんどん嫌気がさしてくる。
「いい、これ食べるから」
ふらつく体を起こし、忍は一番手前に置かれていた鯛粥を手に取った。
「俺が食べさせてあげる」
スプーンを掴もうとしたが、彗に取られてしまい忍は構われるのが嫌で手に持っていたお粥を乱暴に放り投げるようにテーブルへ置く。
「忍!!」
息子の素行の悪さに父親が声を荒げた。
「いいから!」
忍の父親を睨みつけ、黙れと目で命じる彗に忍の父はグッと押し黙った。
「忍?体がしんどいの?大丈夫?食べたくなかったらまた後でもいいよ?」
猫撫で声で聞きながら彗もソファへ座ると、忍の肩を抱き寄せた。
今すぐにでも払いのけたいが、体が辛くて忍はされるがまま目を閉じた。
「忍、可愛い。大丈夫、俺がちゃんと側にいるから」
抵抗しない事へ嬉しさが込み上がったのか、彗は上機嫌で忍を抱きしめた。
「彗様、あまり近付くと忍の風邪が移りますよ」
眉を垂らし、彗の体を案じる忍の父親に男は構わず忍の額へキスをした。
「別に移されても構わないからいい。ってか、なんでお前がここにいんの?」
二人の時間を過ごしたいと言わんばかりに睨みつけながら、彗が忍の父親へ聞いた。
「あ、はい。忍の件なのですが、最近よく体調を崩して彗様のお手を煩わせてるらしく、彗様の習い事に支障が出ていると聞きました。一度、我が家へ連れ戻し鍛え直そうかと……」
「は?俺から忍を取り上げる気?」
忍の父親の言葉を遮り、彗は鋭利な刃物のような目つきで睨みつけた。
その視線と言葉に忍の父親が体を硬直させる。
「お前、さっきからウザい。しょうもない事言ってないでさっさと帰れよ。後、忍に今後、触れるな」
睨みつけたまま命令を下す男に忍の父親は小さく頷いた。
「忍に触れていいのは俺だけなんだから……」
先ほどのキツく冷たい視線と口調とは真逆に彗は優しく甘い声で忍を見つめて抱きしめた。
忍はこの檻からは当分出られないのだと察し、諦めるように瞳を閉じた。
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