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僕が、ほづみさんにいたずらしたいんです!!

 ふわり、ふわりとした妙な浮遊感。  夢の中に落ちる間際の心地よさに微睡んでいたほづみを邪魔したのは、自称夢魔の新見遼だ。 「明日も仕事なんだから、さっさと俺の夢から出て行け」 「余裕ですね、ほづみさん。どうして、約束を破って平日に夢の中にお邪魔したのか、少しは疑問に思ってくださいよ」  目蓋を持ち上げてみれば、おきまりの白い空間が広がっていた。  きちんとベッドに入ったはずなのに、ほづみはどうしてか真っ赤なソファーの上に座っていて、隣には長い髪を後ろでひとつに結んだ美丈夫が、にやにやと笑っていた。  会社で別れたときのまま、きちっとしたスーツ姿の遼に合わせたように、ほづみもスーツを着ていた。  目を閉じる前までは、だぼだぼのスウェットを確かに着ていたはずだ。  夢の中では、夢魔である遼に主導権があるのはたしかで。自分の夢なのに、好き勝手弄られるのは、わかっていても面白くない。  ほづみは不機嫌を顔全面に押し出して、遼を睨んだ。 「寝不足で、俺を殺したいのか?」 「そんな、大げさな。まあ、たしかに眠りは多少浅くなりますけど、完全に二人っきりになれるんですから」 「なんだ? 他人に聞かれちゃあ拙い案件でもあったっけか?」  首をひねると、遼は「まったく、もう!」と天を仰いだ。 「仕事じゃあないですよ。僕は、ほづみさんといちゃいちゃしたいなって、言いたいんです。クリスマス商戦で忙しすぎて、全然、プライベートな時間が取れていないでしょ?」  デザイナーのほづみはオフィスに入り浸りだが、マーチャンダイザーの遼は商品のプロデュースのためにあっちへいったりこっちへ行ったりと忙しい。 「頑張って、直帰せずにオフィスに帰還しているっていうのに、ほづみさんときたらさっさと帰ってしまいますし! せめて、夕飯くらいはご一緒してください」 「俺は寝たい。以上だ」  ソファに寝そべって、ほづみは目蓋を閉じた。  夢の中で寝るなんて馬鹿げているが、いちいち遼に付き合っていると体が持たない。  気持ちや感性は若くとも、肉体はごまかしの利かないアラフォーなのだ。おまけに、お互いのプライベート時間を気にする関係ではない。  会社の同僚で、それ以上でも以下でもない。 「だめですから! 後で怒られたって構わない覚悟でお呼びしたんですから」 「怒らないから、寝かせてくれ」  覆い被さってくる遼の胸を押し返し、ほづみは再び目を閉じようとして……股をなぞる硬い感触に短い悲鳴を上げた。 「ほづみさん、今日が何の日か知っています?」  いつの間にかソファは消え、ほづみは白い床の上に仰向けに寝そべっていた。 「今日? なんだっけか?」  遼は大きく溜息をついたあと、ほづみから離れ、立ち上がった。 「お菓子をくれないほづみさんには、いたずらをするしかないですね」  いつもはニコニコと微笑んでいる遼の顔に、不穏な影が掛かっていた。 「……お前は、いったいなにがしたいんだ」  おそるおそる体を起こし、ほづみは両手を組んで、仁王立ちになる遼を見上げた。 「へっ? は、羽根?」  怒っているんだぞ、と言いたげな遼のしかめっ面。が、見るべき所は顔ではなく……背だった。  スーツ姿の遼の背中に蝙蝠を思わせる大きな羽根が生え、鋭利な切っ先をもつ鞭のような尻尾が生えていた。 「トリックオアトリート」  ハロウィンの常套句を口にした遼は、呆然としているほづみの注意を引くように、尻尾でぺしん! と床を叩いた。 「なっ、なんだよその格好?」 「悪魔の……ちょっと、リアルなコスプレみたいなものです」  コスプレにしては、羽根も尻尾も妙に生物感があって生々しい。  夢だからなんでも有りなのかもしれないが、限度があって良いはずだ。  戸惑いつつ、どうやったら穏便に誤魔化せるだろうかとあくせくしているほづみに、遼は機嫌良く尻尾を打ち鳴らす。 「このままじゃ、いまいち興が乗りきりませんね。雰囲気も、やっぱり大切ですね」 「ふざけんなよ、新見っ」 ほづみの抗議をまるっきり無視して、遼は指をパチンと打ち鳴らした。  くらっと、視界が揺らいだ直後、真っ白だった世界はにわかに淀み、生臭さを感じさせるような湿った洞窟のような場所に切り替わった。 「いいかげんにっ……、なっ!」  起き上がろうとして、ほづみは唐突にのけぞった。  がしゃがしゃと響く、耳障りな金属音。  いつの間にか、ひやっとする台座の上に載せられていて、四肢は手錠で固定されていた。僅かに身じろぐことはできても、思うようには動けない。 「悪趣味だな!」 「たまには、悪ふざけをしたっていいでしょ。ハロウィンですし」  なんとか逃げられないかと暴れるほづみをじっと見つめたまま、遼は尻尾をひゅんひゅんとしならせ、悪魔の格好にふさわしい笑みを作った。 「では、頂きます」 「……っ!」  足の間に割って入ってきた遼は、尻尾の先端を使って無防備に開かれた股をいたぶるようになぞった。  先ほどの硬い感触は、この尻尾だった。 「や、やめ……っ」  自在に動く尻尾は、まるで男根のようで。ぐっ、ぐっと、押し上げるような愛撫に、体からは力が抜けてゆく。 「いやらしいですよ、ほづみさん。尻尾で気持ちよくなっちゃっているんですか? なんだかんだ文句を仰いますが……溜まっていたんじゃあないですか?」  意地の悪い遼の台詞に、ほづみは気恥ずかしさと悔しさで唇を噛んだ。 「ゆ、ゆめ……だから、だ……」 「夢の中だから、お尻を撫でられただけで前を硬くしちゃっているんですか? エッチですね、ほづみさん」  摩り、小突き。  遠慮無く刺激してくる尻尾は、スラックスの上から尻の窄まりを突き上げ、感じてはいけない悦楽に、ほづみはぶんぶんと首を振って涙を目尻ににじませた。  夢だから、良いように弄ばれているに違いない。そう、思っても恥ずかしいものは恥ずかしい。 「あっ……ふっ、んっ、んぅ」  体が揺れるほど強く突き上げられ、漏れる声は湿り気を増してゆく。拘束によって自由にならない体は羞恥心を倍増させ、より、快楽の色を強くさせた。 「苦しいでしょ、ほづみさん。楽にしてあげますね」 「やだ、触るなっ」  尻尾から逃れようと腰を振る仕草は、遼の官能を呷るだけだ。分かっていても、逃げずにはいられなかった。  ほづみの些細な抵抗も虚しく、遼はシルクを折りたたむような優しい手付きで、スラックスを脱がしていった。 「……っ」  背広は着たまま、下半身だけを剥きだしにされ、膝を閉じる間もなく割り込んできた尻尾が、ほづみの無防備な後孔をごりっと擦り上げた。 「ひっ、……ぁ、あっ!」  二度、三度。  ノックをするように押し上げられた後、先端が中へと入り込んできて、ほづみは背中を弓なりに反らせ、声を上げた。 「――んっ、ん!」 「大丈夫、痛くない痛くない。ほら、全然、痛くないでしょ? ほづみさんが、気持ちよくなることしかしませんから、安心してください」 「やっ、はいって、くるなぁ!」  抱きしめてくる遼にしがみつき、ほづみはびくびくと四肢を震わせながら尻尾の侵入に濡れた嬌声を上げた。  認めたくはないが、気持ちいい。  気持ちよくされていると分かってはいるが、自分がおかしくなってしまったようで恐くなる。  戸惑うほづみに遼は満足そうに笑って、さらに深い場所へと尻尾を進めてゆく。  「いっぱい気持ちが良くなったら、ごほうびに、こっちも食べさせてあげますね」  遼はほづみのうなじを唇で強く吸い、後ろの刺激で硬く育ったほづみの男根に指を絡め、自身の男根に擦りつけるよう導いた。  ぎゅうっと、尻尾が締め付けられる感覚に、遼の背筋がゾクゾクと粟立った。 「はぁ……だめだ、我慢できないじゃあないですか。もっと、遊びたかったんですけど、限界です」 「ひっ、やだ! 中で、うごくなぁ……ひっ」  しゃくりあげて泣くほづみに、遼は「よしよし」とあやしながら台座に横たえ、体内をまさぐられる感触に震える膝を容赦なく割った。 「後で怒られるんだから、遠慮なんてしていたら損ですよね?」 「ふざけるな!」と、罵倒したいが、口を開いても、出てくるのは感じ入った嬌声だけ。遼の性欲をくすぐるだけだ。 「大丈夫、夢だから、このまま僕のものを入れても、ほづみさんは気持ちが良いだけですし」  いやだと頭を振るも、先走りを滲ませる先端で入り口を擦られると、強ばった体はたちまち弛緩して、なすがままになってしまう。  我が物顔で入ってくる剛直を、拒むに拒めない。 「……気持ちよくなりすぎて、大変かもしれませんけど」  唇を舌で湿らせ覆い被さってくる遼に、ほづみは観念するよう目蓋を閉じた。

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