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僕と、聖夜を過ごしてください!

 弱いくせに、どうして酒を飲むのか。  馬鹿だとは自分でも思うが、たんに見栄を張っているだけに過ぎない。 「飲めないの?」と言う台詞は、相手にその気がなくとも茶化されているように感じるからだ。馬鹿馬鹿しい矜恃だとはわかっている。飲めないからと馬鹿にしてくるほうが非常識扱いをされる時代ではない。 「無茶しなくてもいいんですよ、ほづみさんのためにシャンメリーも買ってあるんですから」 「うるさい。ちょっとくらいなら大丈夫だ」  雲越ほづみはむすっと唇をとがらせて、シャンパングラスを新見遼の手から奪い取った。クリスマスだからと、会社から送られたペアグラスだ。 「ちょっとくらいって言いますけど……ほぼほぼノンアルコールみたいな甘いチューハイでべろべろになっちゃうでしょ? やめておいたほうが良いと思いますけどね」  抵抗の意を示すべく、ほづみは華奢なシャンパングラスを両手でぎゅっと掴んだ。 「……一応、忠告はしましたからね。忠告を無視して無体を晒すんです、僕、都合の良いように解釈しますよ? いいですね?」 「せ、節度を持て、節度を。同意もなしに襲いかかるのは、犯罪だ」  こころもち、遼から離れるように座り直し、ほづみはグラスをテーブルの上に置いた。  オシャレなガラステーブルの上には、ぱっとみただけでわかるほど、クリスマスらしいご馳走が並べられている。 「ちょっと、買い込みすぎたんじゃあないか?」 「せっかく、ほづみさんと過ごす初めてのクリスマスですよ? 見た目からなにから豪華にしたいんです。余ったら、図体だけがでかいわんこに与えればいいんですよ」  せっかく取った距離を詰めてくる遼に、ほづみは眉を顰めたが、いちいち文句をつけていたらせっかくのチキンが冷めてしまうだろう。触れてくる肩がわざとなのか無意識なのか。できるだけ意識しないようにして、ほづみはシャンパンを注ぐよう、遼に目配せをした。 「いいですか? 飲み過ぎちゃだめですよ」  とぽとぽと、シャンパングラスにさわやかで甘い香りが注がれていく。  酒の善し悪しなどさっぱりわからないので、シャンパンの選定は遼に任せたが、素人でもわかるほど上質の代物であるようだ。 「さ、グラスを持って」  しゅわしゅわと、小さな炭酸の粒が柱となって星のようにグラスに散らばっている。キャンドルが映えるよう絞られた照明の中で、シャンパンは黄金を思わせるきらめきでほづみを魅了した。 「ほづみさん。メリークリスマス」 「……ん。メリークリスマス」  グラスをくいっと持ち上げて、ほづみは最高のシャンパンで喉を潤した。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 「ほづみさん、僕……言いましたよね? まあ、若干予想はできていましたけど。……だから、ご忠告したわけですが」 「……ん?」  ふわふわとした、酩酊感に似た独特の感覚。  何度も何度も体験したせいか、すぐに夢を見ているのだとほづみは気づいた。 「――ん、ん。寝かせろ……新見」 「いやですよ。言ったでしょ、都合の良いように解釈しちゃいます、って」  のらりくらりと、かんしゃく持ちの子供を諭すような柔らかい口調。けれど異を許さない、どこか強さを感じる声音。  抗いたいが、抗えず。ほづみは重たい瞼を持ち上げた。 「なんだ、やっぱり悪魔だったのか?」 「夢の中まで酔いが回っているんですか? よく見てください、羊ではなくてトナカイ。トナカイの角でしょう?」  柔らかく、ひたすら心地の良いベッドの上で仰向けに寝そべるほづみを見下ろしていたのは、頭から角を生やした遼だった。 「あぁ、たしかに。なんだか、物干しにちょうど良さそうな角が生えているな」 「情緒のない台詞ですね。せっかくのクリスマスですし、それっぽい格好も面白いかと思ったんですけどね」  やれやれと、わざとらしく肩をすくめた遼は当然といった素振りでほづみが寝そべるベッドへと上がってきた。 「ちょっとリアル寄りのコスプレをしてみたところで、することはいつもと変わりませんし」 「いやいや、ちょっと待て!」  大きさこそ人間サイズに縮小されてはいるが、ヘラジカの角が醸し出す威圧感に、ほづみはいやいやと抵抗する。 「するのか? 何で?」 「週末はしてもいいって約束ですよ」  にやり。  好意を寄せているであろう取引先の女子社員ですらどん引きしそうな笑みを浮かべ、遼はほづみの制止を無視して服を手早く脱がしていった。 「今日はクリスマスイブですし、都合よく週末ですし。ゆっくり、気持ちよくなりましょう?」  いつもはいきなり素っ裸。  ひどいときには犯されている最中といったシチュエーションもある。段階を踏んでくれるのはそれらよりも断然マシだが、そもそも、クリスマスだからといって抱き合う間柄ではないのだ。 「待て、まっ……ひっ」  角はトナカイだが長い黒髪も相まって、遼の雰囲気は悪魔のようだった。  迫力のある角に気圧されるほづみをなだめるよう、遼は優しい手つきで剥き出しにしたものを手に取り、指先をつかってしごき始めた。 「あっ……ん、んっ」 「せっかく、クリスマスをほづみさんとゆっくりすごそうと思って、飾り付けも頑張ったのに……シャンパンを飲んだらすぐにぐだぐだになって。まさか、この僕がぼっちな聖夜を過ごす羽目になるとは思いもしませんでした」  恨みがましい台詞だが、下肢を愛撫する手つきは甘い。もどかしいと思うほど、やんわりとした愛撫だ。 「んっ、んぁ……や、やだ……」  嫌々と首を振るが、下肢はすでに快楽の虜になっていて。遼の長い指を先走りで湿らせていた。  とても、夢とは思えない濃厚な感覚。本当に犯されているような現実感の中で、体は遼の思うように反応を示していく。 「かわいいですよ、ほづみさん。もう……こんなに大きくして。本当は、僕としたかったんじゃあないですか?」 「そんな……わ、わけ。ここは、夢……だから、んんっ」  堅くなった先端をえぐるように撫でられ、体がこわばる。何もかもがどうでも良くなるほどの気持ちの良さに、ほづみは大きく喘いだ。  だめだと思うのと同時。ここは夢なのだから、気にせずに溺れてしまえと、悪魔が耳元でささやいている。  じっさい、目の前にいるのは夢魔ではあるが。 「はぁ……このまま、ほづみさんの中にいれてしまいたいですけど……せっかく、トナカイに扮してたわけですしね」  この期に及んで、まだなにかしでかすつもりなのか。  夢の中で、主導権はほづみにない。夢魔のなすがまま、されるがままだ。  遼の魂胆がまったく読めないほづみは、恐る恐る様子をうかがった。もうすでに、ひどい目に遭っているが、今以上はごめんだ。  拒めないのならば、できるだけ普通に。そう願うほづみの胸中を見透かしたのか、遼は「かわいいなぁ」とあくどい微笑をうかべた。 「僕がトナカイだとすると、サンタクロースはほづみさんですかね?」  そうだと言えば良いのか、否定すれば良いのか。ほづみはきゅっと唇を噛んで目を閉じた。  遼は身構えるほづみを笑い、顔を耳元に埋めた。 「せっかくだし、僕に乗ってみませんか?」 「――えっ?」  言っている意味が理解できず、惚けた返事をしたほづみだが……すぐに、下肢に重い衝撃を受けて言葉を失った。 「は……ぅ、あっ、あ!」  びくん、びくんと背中が弓なりに反り、膝ががくがくと震えた。 「なっ、な……こ、これっ」 「騎乗位ってやつです。ふふ……僕のもの、すっごく奥まで入っていますね」  夢だからといって、無理矢理にもほどがある。  文句も悪態も、頭が爆発しそうなほどに沢山浮かんでくるが……それ以上に、体を割りひらき、せり上がってくる快感に身もだえていた。 「んっ……ん!」  苦しい。  苦しいが、気持ちが良い。  男との性行に夢の中だけとはいえ快感を覚えさせられた体は、すぐにどうすればもっと、より強い感覚を得られるかを知っていた。 「あっ、ひ……お、っきぃ」 「いいですよ、ほづみさん。もっと、もっとたくさん腰を振っていいんですよ」  口の端から唾液をあふれさせ、ほづみは促されるまま内壁で遼のものを刺激する。前後に腰を振り、ぎゅっと中をしめつけたまま円を描く。  自慰にもにた動きは、組し抱かれているときよりもずっと強い倒錯感を与えてくる。 「んぁ、あっ……! ……る、でるッ」 「いいですよ、イって」  濃いものがあふれる開放感に、ほづみは体全体をびくびくと震わせて絶頂していた。 「だ、だめ……だっ、い、いまはっ」  頽れそうな腰を支える振りをして、おもうがままに揺さぶってくる。体内の雄はまだ堅く、柔らかくほぐれた内壁を容赦なくえぐられたほづみは、感極まった声をこぼし続けた。  

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