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ある日の日常 2

 なんとも食欲をそそる香りなのだろうか。 「いただきます」  手を合わせてスプーンをつかんで一口。沖が郷田をみてほほ笑んだ。 「河北さん、いつもこうなんですか?」 「うん。駿ちゃんはあの食べっぷりに惚れたんだもの」  聞こえるように話す二人に、照れた沖が話題をかえようと、 「佐木さんに色々聞いたよ」  郷田に話を振る。一体、何を話したのかと佐木を見ればにやりと笑う。  普段から強面な顔が、犯人に対するとさらに険悪となる。やくざに「俺よりやくざ顔だな」と言われたこともある。  一度だけ、年上の女性に可愛いと言われたことがあったが、その時は佐木が大爆笑していた。 「佐木さんが褒めていたよ。足は速いし、もみ合いになっても負けないから頼りがいがあるって」  純粋に、凄い、かっこいいと褒められて、しかもそれが好きな人に言われるのだから、嬉しくて口元が緩みそうなのだ。  だが、佐木が見逃さないと刑事の目でこちらをみていた。  絶対にからかわせないと口をきつく結ぶ。  もしかすると店を教えなかったことに対する仕返しをしているのだろうか。 「佐木さん」  郷田が何かに気が付いたことに佐木も気が付いたのだろう。  仕返し、声に出さずにそう佐木が口を動かした。 「……勘弁してください」 「ん、何が勘弁なの?」  理由がわからない沖が首を傾げている。 「いえ、なにも。カレー、おいしいです」  沖のことを知られたくなかったなんて言ったら、子供っぽいことをしてと呆れられてしまうだろう。  それでなくとも頼りにならない自分が情けないと思っているのだから。 「本当、郷田が通うのわかるわ。すごくほっこりする」  そう、まるで沖のように。ここの料理は心を温かくしてくれる。  佐木がここの良さをわかってくれたのが嬉しくて、 「俺の大切なものですから」  そう口にしていた。 「きゃぁ、郷田君ったら」  河北さんが女子のように声を上げる。 「いうなぁ」  佐木がヒューヒューと茶化すようにいい、沖が真っ赤に頬を染めてしゃがみこんだ。 「そういうことなんで。佐木さん、食べたらすぐに帰ってください。沖さん、ごちそうさまでした。部屋で待ってます」  というと、はやし立てる常連を後目に店をでた。

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