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新しい客 3
本当に刑事なんだと、まじまじと名刺を見つめる。
年齢を聞くと沖より四つ下で、今年で二十八歳だという。
「実はさ、郷田君って目つき怖いからその筋の人かと思った」
と冗談を言うように頬を指でなぞると、それに納得するかのように頷いて、
「職場の先輩にも言われます」
と苦笑いを浮かべる。
「はは。でもさ、郷田君に捕まったらすぐに白状しちゃいそうだよ。ね、駿ちゃん」
話を振られてうなずいたところで河北さんが自分と沖の紹介をする。
「河北さんが何か隠し事している時には郷田君にお願いしようかな」
そう笑い、食事を二人の前に出す。
沖の店で提供する料理は、ワンコインで食べられる日替わり定食しかない。飲み物はビールと日本酒のみでお通しつきだ。
定食と一緒にお茶をだす。今日のメニューは大根とスペアリブの煮込みだ。
「これ、美味いんだよねぇ。トメさん直伝」
肉は柔らかく、大根に味が染みている。
「トメさん?」
「あぁ、俺のばぁちゃん。この店の元々の主で料理を教えてくれた人だよ」
元々、この店は祖母が切り盛りしていた。進学の為に家でお世話になる代わりに店の手伝いをしていたのだが、料理を美味そうに食べる客の姿を見ているうちに自分の店を持ちたいと思うようになっていた。
大学を卒業してもそのまま祖母の店で働き、料理を覚えた。
それから十年の年月が流れ、祖母は沖に店を譲り引退し、今は周りの友達と共に旅行したり、ゲートボールをして楽しんでいる。
「日曜日に近くの空き地でゲートボールをしていますか?」
「しているよ。一番小柄で元気なのがうちのばぁちゃん。河北さんのお父さんもメンバーなんですよね」
「そうなんだよ。一番背が高くてひょろっとした眼鏡がうちのオヤジ」
河北に良く似た背格好をしており、知り合いに「お父さんそっくり」と言われるたびに嫌そうな表情を浮かべていた。
「ていうか、オヤジが言っていた刑事の兄ちゃんって郷田君の事だったのか!」
強面で大きな図体の刑事の事は父親から聞いていたのだと河北が言う。
「そういえば、名刺も見たよ。刑事さんから貰うの初めてだって親父が自慢してて、名前だけじゃ解らないもんなぁ……」
「そうですよね」
郷田は見た目こそ強面だが無愛想という訳でもなく、話しかければ返してくれる。
いつのまにか他の店の常連たちも話しに加わり、郷田は皆に受け入れられていた。
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