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心の拠り所
一カ月前に郷田は交番勤務から刑事課へと異動になった。
新しい土地での生活は特に以前と変わらず、アパートから勤務先を往復する毎日であり、食事はコンビニで買った弁当を食べていた。
普段は通らない道を通ろうと思ったのは気まぐれだった。
そこに店を見つけ、足が止まる。
昔懐かしいその雰囲気は中へと入るとよりそう感じた。カウンターと座敷がありメニューは日替わり定食とビールと日本酒しかないが、別に腹が満たされれば郷田はそれで構わなかった。
カウンターの隅の席に腰を下ろすと、一気に視線を感じた。
大柄で強面な姿を恐れて警戒しているのだろう。居心地の良い空間は自分の存在によって重苦しくなり、食事をして早く帰ろうと店主を真っ直ぐと見つめる。
エプロン姿の彼は、たれ目の甘いマスクをしている。歳は20代後半から30歳くらいの中肉中背。
別に彼の特徴を覚える必要もないのに、つい、刑事として彼を見てしまうのは職業病だよなと同僚がいっていたが、その通りだと思う。
「お待たせいたしました」
油でいためた茄子、ピーマン、ジャガイモ、豚肉を味噌で煮込んだものとサラダとお新香、そして豚汁がついている。
「頂きます」
そう手を合わせて、茄子を一口。なんともほっこりとくる優しい味付けだ。
すぐ近くで視線を感じてそちらへと向ければ、店主が自分を見て微笑む。
それは料理と一緒で、郷田の心までもが温まった。
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